夏油のことなんてどうでもよかった。
宗教集団の教祖かつ呪詛師集団のトップを務めている彼はとにかく金を持っていて、あきらに対して報酬を出し渋ることがない。あきらが彼に求めているのは金以外の何でもなく、彼の思想も、目的についても、さしたる興味はなかった。非術師皆殺しとかできるわけないじゃんとさえ思っていたくらいだ。
「今日は久しぶりに家族たちが集まるんだ。だからみんなで写真を撮ろうと思ってね」
「はあ」
家族写真というやつか。生返事をしながら機嫌のいい夏油の隣を歩く。
「じゃあ私が撮りますね」と一応気を利かせてみると、夏油が立ち止まり、怪訝そうな顔をこちらに向けた。警戒して一歩下がれば、「あきらも一緒に写るんだよ」と呆れたような声がかかる。
「は?なんでですか」
「なんでと言われても。私たちは家族だろう」
三脚も買ってあるからねと夏油が嬉しそうに言う。先を行く足取りは軽い。あきらはぽかんと口を開けて、その後ろ姿を見つめていた。
金でしか繋がっていないつもりの自分に一体何を言っているのかとか、いくらなんでも判定がガバガバすぎないかとか、とにかく呆れたことを覚えている。
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「やああきら、久しぶりだね」
知った男の顔が、知った男の格好をして、知った男の声であきらを呼んだ。額には傷があり、それだけが唯一見慣れないものだ。
あきらは目を見開いて、信じられない思いで目の前の男を見つめている。口にくわえていた煙草がぽとりと落ちて、地面の上で燻った。
「すぐに戻ってこれなくて悪かった。少し事情があってね、隠れざるを得なかったんだ」
男は記憶にある口調で、するするとそれらしいことを述べている。また私に力を貸してくれないか、と結び、少し困ったように微笑んだ。あきらは答えず視線を落として、まだ煙を上げていた煙草を、靴の裏でぐりぐりと踏みつけた。
「あきら?」
「アンタ、何です?」
あきらの問いかけに、夏油の形をした何かは面食らったような顔をした。少しの沈黙の後、にやあ、と醜悪に嘲笑う。「へえ」と面白そうに言った。
見たことのないその表情に、あきらはぎゅっと眉根を寄せた。
「君くらいならごまかせると思ったんだけど」
「……」
「君は大して彼を慕っていなかったはずだろう?どうして気づいたのかな。よければ教えてくれないか」
次の参考にするからと男が続ける。その背後には亀裂が生まれ、悍ましい気配が漏れ出している。
そうだ。この男が言う通り、あきらは夏油傑という人間を慕っていたわけではなかった。子供たちがするように神様のように思っていたわけでも、家族として大切に思っていたわけでもない。仕事をし、報酬をもらう。それだけの関係だった。
けれど。
「……特に理由はないですけど。強いて言うなら——」
それでも夏油は、他の家族に向けるのと同じ柔らかい笑顔で、あきらを家族と呼んだのだ。
「——女の勘」
呪力量も術式もかつての彼と同じなら、勝てるかどうかはわからない。それでもあきらはどうしてか、逃げる気にはなれなかった。
目の前の男が嫌いだ。その体ごとぐちゃぐちゃにして、燃やして灰にしてやりたい。本来そうであるように。
「ハハッ」
女は怖いねえと、あきらのことを馬鹿にして、夏油の顔をした男は笑った。