弱い者いじめは気分がいい。しかもそれを暫く続けろとの御達しだ。
機嫌良く了承すると子供はいつものように、あっという間にいなくなる。人のことは言えないが、相変わらずよくわからない相手だった。まあそんなどうでもいいことはさておいて、次の標的を探すぞぉと張り切ったところで、
「——おい、お前」
短い呼びかけを耳に捉えた。
地の底を這うような、低い、女の声だった。
救援の術師らしい。随分早い。
「……なぁに、おねーさん」
ゆっくり振り返りながら、にんまりと表情を作る。さっき刺した男の前に、女が一人立っている。
流れ出した血が赤い水溜りのようになっている、それを踏み締めながら、彼女は強い視線でこちらを睨んだ。
「呪詛師か」
「そうかも?」
曖昧に答えれば眉間の皺が深くなる。面白くなって声を上げて笑った。
「……何がおかしい」
「だって。俺に構ってていいの?その人そのままだと死んじゃうよ」
「……」
倒れたまま動かない男の体からは、今もどくどくと血液が漏れ出している。失血死は目前だ。女は少し目を伏せて視線を流してから、小さく唇を開いた。
「伊地知」
「…………は、い」
男が答える。
少し驚いた。まだ意識があるなんて、見かけによらず結構生命力が強いらしい。
こちらを睨み直して、すぐ片付けるから、ちょっとだけ待ってなさい、と低い声が言った。
「おねーさんめちゃくちゃ言うね。おもしろい!」
「言っとくけど、伊地知」
こちらのことは丸無視だ。伊地知と呼んだ相手に向かって、女は凄む。
「もし死んだら殺してやるから」
本当にめちゃくちゃだ。
はい、と最初よりはしっかりとした返事があった。聞くなりどこから取り出したのか、女は呪具を構えて、強く一歩を踏み込んだ。