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魔入間/退屈してるキリヲ

「つまらん。アキラはつまらんわ」

心底がっかりしたようにそう言って、その男はアキラの喉を押さえつける行為を中断した。肌の上を這い回っていた片手を退けて、己が引き千切ったせいで開いた胸元を閉じる。上から退いて堪忍なと本当に思っているのかわからないことを言いながら、そばにあったシーツを被せた。アキラは無抵抗だった四肢に力を入れ直し、上体を起こしてそれを見る。

元祖返りを果たした男。
自らの主人の一人、アミィ・キリヲを。

「怒ってるん?」
「いいえ」
「せやろなぁ」

自分を見据える部下に向かって、キリヲはベッドの端に座り、苦笑いをしている。それから拗ねたように目を逸らして、「はよなんか面白いことしたいなぁ」とぼやいた。

監獄から抜け出したはいいものの、動き出せなくて退屈しているのだ、この男は。
だから戯れにアキラなどに手を出そうとする。

アキラはベッドから降りた。
彼とは異なり、アキラはいくつかの雑務を申し付けられている。彼の興が冷めたのならなおのこと、ここにいる理由はない。

「アキラはつまらん」

さっきと同じことを不満そうに繰り返して、主が言う。

「僕になんにも期待してない。だから傷つけられん」

アキラは静かに己の主に目を向けた。おそらく視線は冷たくも熱くもないだろう。
彼の言った通りだ。この主に限ったことではないが、アキラは何も期待していない。何も望んでいない。なんとも思っていない。嫌ってもいないし好いてもいない。
だから。

「では他の者で遊んでください」

感情の篭らない口調で言うと、それでは、と頭を下げた。
ひらひらと振られた手を許可として、扉の方へと足を向ける。重い扉を開けた。

「わかってないなあ」

出て行く背中に声が掛かる。

「僕は君の絶望が見たいんよ」

きっといっとう、何よりも綺麗やろうから、と、夢見るような声を最後に、重厚な扉が音を立てて閉まった。