Skip to content

おしごと

※幼少五条

 

あきらの家の庭には大きな蔵があって、そこには絶対近づいてはならないと、物心ついたときから祖父に言い聞かされている。転がったボールを追いかけて、閂のしっかりかかった扉に近づいたのを見られた時には、そりゃあもう怒られた。ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら繰り返すあきらを、祖父はそれでも許さずに、二度と近づくなと厳しく叱りつけた。
 

──あれが起きれば。

──死ぬんだぞ。
 

あれとは何だろう?子供心に疑問には思ったものの、その時の表情が、怒っていると言うよりは恐れているような不思議なものだったので、あきらはなんだか申し訳なくなった。それ以来、あきらはその言いつけを破っていない。

 

遊ぶ予定だった友達に急用ができて、つまらなくて石を蹴りながら家に帰ってくると、玄関にいくつか、下駄のような履き物が並んでいた。

お客さんが来ているようだ。邪魔をしないよう、静かに自分の部屋に向かった途中で、廊下をぶらぶらと歩く、自分と同じ年くらいの男の子を見つけた。

「えっ」
「あ」

着物だ。髪が白い。そしてこちらを見つめる目が青い。
ビー玉のような綺麗な瞳をきらきらと輝かせて、その子は「この家のやつ?」とあきらに向かって問いかけた。
うん、と頷くと、嬉しそうに笑う。

「じゃあ遊ぼ」

悟、と名乗ったその子と遊ぶのは、結構楽しかった。
珍しいことにトランプの遊び方さえ知らないらしかったが、あきらが遊び方を説明すると、するすると理解する。ババ抜きも七並べも二人だとすぐ終わってしまって、なんだかつまらなさそうな顔をした悟に、あきらは「みんなで遊ぶともっと面白いよ」とつい言い訳のようなことを言った。

「ふーん。みんなで?」
「うん」

と頷いたその時。

「──悟様」
「げ」

障子の向こうの人影が、こちらに向かって呼びかける。嫌そうな声を出す間に、開けますよ、と断って扉が開いた。悟と同じく着物の男性と、その後ろに驚いた顔の祖父がいる。
男性があきらを見て、優しく微笑んだ。

「坊ちゃんと遊んでくださってありがとうございます」
「え、いえ……」
「あきら、帰ってたのか」
「うん、おじいちゃん」
「悟様、話がつきました。行きますよ」
「ん」

少年が立ち上がる。先を行く男性の後を追いかけて、玄関の方へ向かった。
祖父が後をついて行くので、あきらもなんとなく、どこかおかしな列に加わる。

辿り着いた玄関で、二人は履き物を履いて外に出る。帰ってしまうのかと思いきや、歩く方向は門の方ではない。あっちは。

「お、おじいちゃん、あっち駄目だよ」
「……」
「蔵に行っちゃうよ……」

恐る恐る見上げた祖父は、眉間に皺を寄せて、「あの方たちはいいんだ」と言った。視線はずっと、二人を追いかけている。

蔵の前に二人がたどり着く。ふと悟が振り向いた。
あきらに向かってにかっと明るく笑い、閂を外した扉の中に、軽い足取りで入っていく。悟くんが死んじゃう。泣き始めたあきらの頭を撫でた手のひらは、大きくて暖かかった。