※学生時代
「つまんねー!」
「座席蹴るのやめてください……」
坊ちゃん育ちのわりに、躾のなっていない少年だ。というより本人が好んで乱暴に振る舞っているのか。
ミラー越しに青い瞳で睨まれて、はあとため息を吐きながら、あきらは車のエンジンをかける。今日の任務も無事終了だ。
「最近単独任務ばっか」
ぶちぶち文句を言う少年の名は、五条悟と言う。
別に嫌がらせで単独任務ばかりをあてているわけではなかった。
一つの任務の失敗を経て、術師として大きく成長しすぎてしまった五条はもう、学生ながらも別格の存在で、それは同じく特級を冠する同級生であっても変わらない。
五条の任務についていって、足手纏いにならないでいられるだろう人間が、もうほとんどいないのだ。
「高専戻っても硝子はいるけど傑は別んとこ行ってたりするし」
「夏油くんも引っ張りだこですからね」
「へえ」
「今年は呪霊が多くて」
術師の皆さんには負担をかけています、と申し訳なさそうにあきらが続けた。
「……別に仕事が嫌だって言ってるわけじゃねーよ」
その声色を気にしたのか、五条が睨むのをやめてそっぽを向いた。少しの間、後ろに流れていく景色を見ていたかと思うと、視線を下げる。
「最近あんま話してねーなって思っただけ」
「……そうですよね」
まだ子供なのだ。
同じ年頃の普通の子供たちが、毎日学校に通って、友達とじゃれあっている間に、この子達はそういった平和な楽しみの全てから遠ざけられて、呪霊や人の死に向き合わねばならない。ただ力を持っているからと、それだけの理由で。
「…………次の土日」
後部座席で旋毛を見せている五条を見て、少し迷った末、あきらはまだ内緒ですがと前置いて口を開いた。ちらと意識が向けられるのを感じて、先を続ける。
「夜蛾先生の配慮もあって学生たちはお休みになるそうですよ」
「え!」
「ちなみに私も休みをいただけるそうなので……」
車で行ける範囲なら、連れて行くこともできますが。
あきらに任務の決定権など勿論ない。だからもうあの三人を連れて、賑やかな道中に苦笑しながら実習に向かうことはないのかもしれない。
けれどそれ以外なら、あきらにもまだしてやれることはある。
「マジで!?」
嬉しそうな声を上げて運転席の背に張り付いた五条を見上げて、あきらはふふっと笑った。