※not夢
今でもあの男は美しいのだろうか。
野生の獣のような、孤高の神のような力と佇まいはそのままで、そのくせ夏油のような凡人の隣を歩いていた時のように、普通の人間とくだらないことを言いながら笑い合い、あの日吐いたような綺麗事で歩みを止めているのだろうか。
「教師だなんて、似合わないな」
調べて知った近況を笑って、その生徒の忘れ物を手の中で弄ぶ。こちらを無感情に見つめる、弱気そうな少年の写真。おそらくは、これを得ることでようやく、夏油は彼と同じ境地に至る。
──この手に力があるなら。
──全部全部壊してしまえば早いのだ。
夏油ならそうする。
彼はそうしなかった。今もまた、わざと歩みを遅くして、一歩を積み重ねて行こうとしている。ホラ見ろ、オマエにだってできただろと、やれたはずだと、声が聞こえてくるようだ。
「ちまちまやるのは嫌いだっただろう」
無理をする、と苦笑した。
生意気な笑顔を思い出す。もう帰らない夏のこと、手から落ちたいくつかの命。
俺たち最強だし、という親友の言葉は、もう遥か遠くにあった。多分一度死にでもしないと、届かないに違いない。