打って走る、ただそれだけのことが、運動音痴のあきらにとっては難しい。
スペアメカ丸から放たれるボールになんとかバットを当てたのは良かった。問題はその次で、走れ!と誰かからかかった声に言われるがままに、大した心構えもなく走り出してしまったことだった。
変に凹んでいた地面に足をひっかけ、気がついたら地面に額をぶつけていた。
「……大丈夫ですか?」
びっくりして固まっているところに、駆けつけた野薔薇が声をかけてくれた。
「う、うん」
「足ぐねったろ。無理に立つなよ」
続いて真希に言われる。視力のいい真希が言うならそうなんだろう。まだ痛みはない右足首を見ながら、とりあえず上半身を起こす。
「ったく。なんで個人戦でもないのに怪我人が出るんだか」
「硝子さん医務室ですよね?虎杖にでも運ばせます?」
「いや」
あきらを置いて相談が続く。ぼけっとしていたら、真希があきらを見下ろして、「しゃーねえ」と息を吐いた。
次の瞬間、あきらの体がふわっと浮いた。
「え」
──これは、あれだ。
お姫様だっこと、いうやつだ。
「……ええっ!?」
「すぐ戻ってくる。打順回ってきたらタイムとっとけって、バカに言っとけ」
「わかりました、バカに言っときます」
「聞こえてるよ〜」
行っといで、と審判役の五条がへらへら笑った。
「ま、真希」
「何だよ」
「歩けるっ、歩けるって!ていうか怪我」
「治ってなきゃ野球なんかやるか」
「…………」
ごもっともだ。
何か言い訳になるものは、と思って意味もなく辺りを見回したあきらは、視界の端にそれを見つけた。びくっと体が強張る。
「……真希」
「だから何だよ」
「あの、真依ちゃん?が、めっちゃこっち見てるんですけど」
「ああ?」
めちゃくちゃ見られている。睨まれているわけではないが、感情の見えない視線がむしろ怖い。
「私を睨んでるんだろ。いつものことだから気にすんな」
「…………」
あきら一人を抱き上げた状態でなお、スタスタと姿勢良く歩く真希は、なんだか色々わかっていない気がする。
確実に自分に向けられている真依の視線に、あきらはちょっと寒気を覚えた。