夏油に言わせると、呪術師の家系に生まれながら呪術のひとつもまともに扱えないあきらのようなものはできそこないの猿らしい。
まあ今まで血の繋がった連中から浴びせられたものに比べれば、こんな悪口は傷つくほどのことでもないので、特に何も思ったりはしなかった。
ただ淡々と仕事をこなしただけ。
高専の生徒のためにご飯を作って、寮内の清掃なんかして、体調を崩したら看病なんかしたりして。
そうやって、夏油のいる四年間は平和に終わるはずだった。
「やあ、元気にしてたかい」
そういって片手をあげる夏油は、いまや犯罪者なのだった。
百を超える人間を呪殺したことが明るみになったのはついこの間だ。呪術界の不祥事は一般には知らされないから、警察に手配こそされていないが、本当なら十回は死刑になっていてもおかしくない人間であった。
殺しにきたの、とあきらは問うた。それでもまあいいか、と思っていた。
「いいや?」
相変わらずの貼り付けたみたいな笑顔だった。
「身の程知らずの猿は大嫌いだが、君はそうではないだろう」
呪力が無くて。
代わりに武器にできるような能力もなく。
何の役にも立てなくて。
家族にさえ見捨てられた。
自分に価値なんてないと、おそらくあきら自身が一番自覚している。だから、他人に何を言われたところでもう傷つくこともできない。
「君なら飼ってやってもいい」
あきら、と夏油が名を呼ぶ。
「……名前なんて、覚えてたんだ」
考えられたのはそれだけだ。
遠のく意識の中で、最後に聞いたのは夏油の笑い声だった。