高専の待機室に入ると、五条ともう一人、高遠あきらが暇そうにソファで寛いでいた。中の人物を認識した瞬間に踵を返した七海の背に、「よお七海」という五条の声がかかる。
遅かった。
「久しぶりに会った先輩に挨拶もなしとはどういう了見だコラ」
「……」
「こっちおいでよ」
先輩後輩という関係は厄介なものである。こうして卒業して何年経っても、先輩たちは横暴さを捨てないし、それに未だ後輩として順応してしまっている自分も嫌だ。
しばらく黙り込んだ後、七海は大きく溜息を吐いて、ゆっくりと振り返った。
目隠しの奥からこちらを見て、多分五条は笑っている。
向かいに座るあきらがここに座れと言わんばかりに自分の隣を叩いたが、それは無視して五条の側に座った。勿論間はしっかりと開けておく。
「ホントに戻ってきたんだね」
七海を眺め、感心したように言うあきらは、高専を卒業した数年前とほとんど変わった様子がない。五条の方は外見だけでなく中身もそのままだったから、きっとあきらもそうなのだろうと勝手な予想をした。おそらく外れてはいないだろう。
「えっと……何年ぶりだっけ」
「……四年程ですかね」
「四年…………四年!?四年も会社員!?」
七海の返答に目を見開き、何がしたいのかいちにさんしとわざわざ指を折る。大口を開けて笑う五条に、あきらが「長くない!?」と同意を求めた。
「あきらに比べたらそりゃ長いよ」
「よく四年も耐えたね!?」
「……待ってください」
どちらも口振りがおかしかった。
七海が止めると、疑問を察したらしい五条が口の端を持ち上げる。
「あきらも二年くらい前に一回呪術師辞めたんだよ。オマエと一緒。いきなり呪術師辞める!って言い出してさ、結構騒ぎになったんだから」
「高遠さんが、ですか……」
何でもないことのように五条が言った。当人はと言えば少し気まずそうに目を逸らしている。
何も悩みがなさそうな人だという印象を、七海は学生時代からあきらに抱いていたが(少なくとも振る舞いだけを見ればそうとしか思えなかった)、そんな彼女も人知れず葛藤を抱えていたのだろうか。
同級生を失った七海のように、あるいは、高専を出て行ってしまった誰かのように。
懐かしいような寂しいような思いが胸をついて、七海は何を言っていいかわからなくなる。
そうして自然とできた沈黙を壊したのは、また五条の声だった。
「──まあ三日で戻ってきたけどね」
「は?」
「いや、まあ、あれは」
思わず目の前のあきらに目を向けると、彼女はもごもごと歯切れ悪くごまかした。悪戯がバレた子供のような焦った顔で先を続ける。
「その、上司がすごい嫌な奴だったんだって。何も教えてくれないし嫌味だし。で、ほら、このままだとちょっと、その……」
「殺しちゃうなって?」
「ははは……」
乾いた笑いでごまかした後、「七海ホントすごいよ!!尊敬する!!」と大きな声を出す。在学中には一度も聞いたことのない心からの賞賛に、久しぶりの脱力感を七海は覚えた。