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0巻の後/五条

片腕がない。
胸に大穴。

寝心地の悪そうな寝台の上で眠る顔馴染みの、やけに穏やかな顔を見ながら、あきらは「硝子に任せないの」と問いかけた。近くに座っていた五条が、「必要ないだろ」と返してくる。
呪術高専において、死体の処理は大体家入硝子の仕事だ。解剖して死因等々を調べ、しかるべき処置の後、遺族に返したり返さなかったりする。
夏油傑のこの体も、本来ならそうされるべきものだった。
硝子は別に嫌がらないだろう。あきらもそうだが、呪術師というものはみんな、心のどこかを殺す術を自然と身につけている。もう十年も前にいなくなった同級生が相手であっても、いつものように刻んで調べて取り出して計って、用が終わったらしっかり縫い合わせて終了だ。
一番確実で、一番安全な処理方法。
でもその必要はないと五条は言った。

「お優しいことで」
「別にィ?」

あきらの溜息なんてお構いなしだ。大した意味があるわけじゃないよ、と軽い声が続く。

「どうだか」
「あぁん?」
「本当にいいの?」
「いいって言ってるでしょ」
「……夏油の体、欲しがってる奴がいても?」

夏油が率いた家族たち。呪詛師と呼ばれる外れ者の業界に詳しいあきらは、その動きを少しならず掴んでいる。
彼らは夏油を心から慕っていた。だからどうにかして、例え何の意味もなくたって、体だけでも取り返そうとするだろう。へえ、と五条が頷く。大して驚いた風でもない反応に眉をひそめた。

「いいんじゃない別に」
「は?」
「家族なんだろ、そいつら」

睨んでみても飄々としている五条は、いつも通り白い包帯のような目隠しをつけていて、その奥で何を考えているかも、見ているのかもわからない。

「…………お優しいことで」

もう一度、あきらが先の台詞を繰り返す。五条はハハッと笑ってみせた。