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野薔薇と後輩

「後輩!」

一つ上の先輩は、人工の闇を蹴飛ばすように高らかに、あきらのことを代名詞で呼んだ。
これから突入する予定の廃墟を前に仁王立ちになり、首だけでこちらを振り向いて自信たっぷりに笑う彼女の名は釘崎野薔薇。
高専一の暴れ馬と異名を取る、呪術高専二年の先輩である。

「はい……」
「声が小さい!」

か細い返事をしたあきらに間髪入れずに釘崎は言った。慌ててはい、と先ほどよりも大きな声で言い直すと、腕を組んだ釘崎が「うん、よし」と満足げに頷く。
テンションがかなり高い。
接している時はいつもこうだ。
普段からこんな感じなのか、とそれとなく他の先輩に聞いて、釘崎後輩できんの楽しみにしてたから、とか女子だって聞いてからは特にな、とか申し訳なさそうだったりどうでもよさそうだったりする返答が帰ってきたのは一昨日くらいのことである。
なのでかわいがられてはいる。一人で任務ができる二級術師に上がっておらず、同級生もいないあきらに、先生からの頼みがあるとはいえこうして文句なく着いてきてくれるのは素直にありがたいとも思う。

「今回私はサポートだから、そんなに手は出さないわ。でも危ない時は助けてやるから、ガンガン行きなさい」
「ガンガン……わかりました」
「で、終わったら原宿」
「はい……原宿…………」

つい繰り返してしまってから、原宿?とあきらが首を傾げた。
釘崎がよくわかっていない様子の後輩を見て、ふふん、と楽しそうに笑う。

「楽しみがある方が気合い入るってもんでしょ」
「え」
「心配しなくてもクレープくらい奢ってやるわよ」

ふふふん、とこれまた満足そうに笑うと、廃墟に向き直った一つ上の先輩がずんずんと歩き出した。目を丸くして立ち止まる後輩の様子には気づいていないらしい。

「あーいう子なんすよ」

結構近くから声をかけられて、びくっと体が跳ねる。顔を向けると、付き添いで来てくれた補助監督の女性が、困り顔と笑顔の中間のような顔であきらを見ていた。

「新田さん」
「悪い子ではないんすよ、ホント」
「それはわかってるんですけどちょっと戸惑うというか」
「まーそのうち慣れるっす!」

ぐっと指を立てられてあははと力なく笑う。後ろにあきらが付いてきていないことにやっと気づいたらしい釘崎が、こちらを振り向いて、「あきらー!」と急かした。

「はっ、はい!今行きます!」
「じゃあ高遠さん、気をつけて!」
「わかりました!」

慌てて駆け出すあきらの背中に、釘崎さんが無茶しないように見といてあげてくださいねー!という、かける立場を間違えているような言葉がかかる。「はい!」とつい反射で返事をした直後、我に返って冷や汗が出たあきらであった。