※学生時代
交流会一日目、団体戦。例年通り校内に放たれた呪霊を倒し、その数を競うはずの勝負は、しかし毎年生徒のプライドやら何やらでその通りには終わらない。
家にあまり縛られていない東京校の生徒はまだマシだが、名門と言われる家柄の出身が多い京都校の生徒はその傾向が顕著である。
つまり、妨害と相手の戦力低下に重きを置くのだ。
高専の有する森の中。
先ほど向こうの仕掛けからギリギリセーフで逃げ延びたあきらは、痛めた足を引きずって溜息を吐く。
相手の姿は見ていないが、炎の術式だった。ということは一学年上のあいつだろう、とこのあたりに潜む敵のあたりをつけていたところに、「やっほー」と五条悟がやってきた。
ツーマンセルの相方だったはずなのに偵察だのなんだの適当なことを言って、しばらく消えていた、五条悟だ。今更戻ってきて、あきらの足を見て呆れたような顔をしている。
「術式喰らったわけ?」
「避けた。……先でこけた」
「え?もう一回言ってくれる?」
「…………」
言うか。アホか。恨みがましく睨みつけてみたものの、五条はどこ吹く風だった。サングラスの奥に見える目が、あきらの間抜けを笑っている。
「あんたがいなかったから狙われたんですけど?」
「はあ?術式で怪我したんなら謝るけど、こけて怪我したのはあきらのせいだろ」
「…………」
あまりに正論で言葉も出なかった。
しかし腹が立つので、フン、とそっぽを向いた。これくらいは許されたい。
別にこれくらいの怪我なら医務室に頼らなくても、硝子の練習台になればどうにかなるし、明日の個人戦に支障は出ないはずだ。ただ今をどう乗り切るか、を考えていたあきらに声がかかる。
「おい、あきら」
「うわっ」
いつの間にかすぐ側にいた五条に、あきらは少しびっくりして後ずさった。
「な、何?」
「これ」
しかし五条はまた改めて近づいてきて、あきらの方へ手を伸ばす。サイドの髪を掬って、「どうした」と。
「ええ?あー……。道理で焦げ臭いわけだ」
見れば髪の一部がチリチリに焦げていて、長さがずいぶん変わっていた。攻撃は避けたつもりだったが、完璧ではなかったらしい。
まあ顔でなくてよかった。髪はまたすぐ伸びてくれる。団体戦が終わったら誰かに整えてもらえばいい。
教えてくれてありがとうと、言おうと思って口を開いた時だった。
「アイツか」
地の底を這うような声がして、目の前の男の雰囲気が変わる。さっきまで笑っていた瞳が、見たことのない色に輝いた。
気圧されて言葉がでなくなる。強いのだと、それだけは知っているつもりだったクラスメイトのことを、本当は少しも知らなかったのだと、あきらはこのとき初めて知った。
「……あ、悪い」
あきらの息がおかしいのに気づいたのか。
五条は突然元の軽い雰囲気に戻って、あきらのなくなった髪を惜しむように、優しく髪を指で梳く。
「俺用事できたから。あきらは終わりまで、その辺で隠れてれば」
「……はあ?」
「じゃっ!」
それだけ言うと、五条は風かなにかのようにその場を去っていった。途中で術式を使ったのか、気配が完全に失せている。
「い、意味がわからん……」
一人ぽつんと残された森の中で、あきらは力なく呟いて、その場にぺたんと座り込んだ。