※学生時代
朝から五条の機嫌は悪かった。
本当にわかりやすいもので、隣の部屋から出てきた時からピリピリしていて、空気を蹴るようにドカドカと歩く。どうしたんだい、と夏油が尋ねると、親友は立ち止まり、ムッとした顔をこちらに向けた。
「……メールの返事来ねー」
ぼそっとそう言ったので、夏油は込み上げる笑いをなんとか噛み殺して、「なにか大事な話でもしてたのか」とまた質問する。
最近のことを考えればわかりきっているから、相手が誰なのか、とかそういうことは聞かない。
「別に。おはよって送っただけだけど」
五条がふいっと顔を正面に向けた。大きな足音を立てて歩き出す。
夏油はきっちり吹き出した。なんなんだよとでも言いたげにまたこちらを向いた五条にごめん、と一応言っておく。
笑いが堪えきれていないので本当に一応である。五条は思いっきり眉を顰めたが、結局何も言わなかった。
「なんていうか、随分マメなことしてるんだな」
「……いいだろ。付き合ってんだし」
「そういうの面倒がるタイプだと思ってたよ」
「うるせー!」
今度こそ我慢しないで夏油は笑った。
苛立って早足になる五条を追いかける。
御三家たる五条の跡取り、六眼と無下限呪術の二つを備えた稀代の特級呪術師も、こと問題が恋愛となると、普通の少年と変わりないようだった。
付き合っている相手にくだらないメールをして、返信がないからとむくれるなんて普通のことをしている。
なんだかおかしかった。
今日もこれから自分たちは街やら山のどこかに潜む生き物を殺しに行くというのに、なんて平和なことだろう。
「楽しそうで羨ましいよ」
本心から出た言葉だった。
ちょっと驚いたように眉を跳ね上げて、五条がはぁ?と声を上げた。
「じゃあオマエもさっさと彼女作ればいいじゃん。硝子とか。なんなら協力するけど」
「無茶言うな」
「そうか?」
そんな余り物でくっつくような真似はごめんだ。第一自分がもしその気になったとして、硝子の方が嫌がって成立しないだろう。
──それに。
「もし好きな子ができても悟には絶対に頼まないよ」
これも本心だ。
どんな雑な協力をされるかわかったものではない。あきらとくっつくまでの紆余曲折を見たって、今の五条が恋愛において役に立つとは到底思えなかった。
だが五条はどうしてか驚いたらしい。
一拍置いて、言葉の意味を飲み込んでからなんでだよそこは頼めよとショックを受けた。
「ハハハ」
「傑!」
古い廊下に五条の声が響く。なんとも平和な、いつもの朝だった。