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悠仁と電話/八月

東京着いたーというメッセージとともに明らかにド田舎の山々の写真が送られてきた時にはこいつ騙されてんじゃないのと不安になったものだし、しばらく連絡がなかったときは学校の友達ともう仲良くやってんだろうな、底抜けの陽キャだもんなと恨めしく思ったものだが。

『そんで今日は映画見ててさ』
「悠仁」

こう毎日電話をされると、それはそれで。

何?と聞いてくる悠仁の声に咳払いをし、あきらは言葉を慎重に選んだ。たとえどんな現実が待っていようとも相手をなるべく傷つけない言葉選び、それが重要だ。よし、と覚悟を決めて電話の向こうに問いかける。

「その、私は全然いいんだけどさ?」
『?うん』
「もしかして、ウーン……その、悠仁、最近つらいこととかある?」
『はい?』

ぼかしすぎたのか。悠仁は心底何もわかっていない声を出した。別にないけど、と返しているその表情はきっときょとんとしているのだろう。もう少し踏み込まないといけないか、とあきらはもう一度覚悟を決めた。

「そのー……友達ができないとかさ?」
『…………』
「喧嘩したとか?」
『……あー!!』

やっと言いたいことを理解したらしい悠仁が大声を出した。そういうことね、とうんうん言っている。
あきらの心配に反して、『別にハブられてるとか友達できてねーとかそういうことではなくて』と普通の口調で悠仁は言った。

『ただちょっと……諸事情で話ができない状態っていうか……』
「諸事情……」
『今こうして喋れる相手あきら以外あと三人くらいしかいなくてさ。その三人も忙しいからあんまり面倒かけさせらんねえし』
「……」

何か複雑な事情があるらしい。つっこんで聞いても答えが返るかはわからないので、眉間に皺を寄せるにとどめた。どうせどんな顔をしていたところで悠仁にはわからないから大丈夫だ。

『でもそーだよな、いくらなんでも電話しすぎか。悪ぃ』
「いやそれは別にいいんだけど」
『ホント?』

うん、と頷く。じゃあ明日もいい?と聞かれて、八時からならいいよと答える。嬉しそうな声の悠仁がありがとな!と言ってくるので思わず頬が緩むが、これも向こうには見えないので問題はなかった。