せっかく家で二人、ゆっくりできる時間ができたというのに、七海はソファーで新聞を読むばかりで相手をしてくれない。呪術師として生きるあきらは、新聞に載るような表の出来事と自分を切り離して考えているきらいがあるが、七海はそうでもないようだ。
面白くなくて隣でしばらく口を尖らせていたあきらだったが、ふと今日の任務中にあったことを思い出した。
「もし死んだらさぁ」
随分唐突になった話の始まりに、七海がすっと目を向ける。何の話ですか、と問われた。
「今日久し振りに死ぬかもって思ったんだけど」
「…………そんなに危なかったんですか」
「うん」
「怪我は」
「治療済み」
なので全然平気です、と言うと七海は新聞に目を戻す。後で確かめられそうだなーと思いながら、あきらは話題の先を続けた。
「まあ……、いろいろ考えちゃったわけよ」
呪術師として生きている限り安全圏はどこにもない。弱いやつも強いやつも運次第で平等に死ぬ。七海もあきらももちろん例外ではない。
だからまあ、たまにはこういう話をしておくのもいいかと思う。
「七海はさ、もし死んだら私にどうしてほしい?」
「私の話なんですか?」
「そうですけど?さっきから相手にしてくれない恋人に対する苦肉の策なんだよこれは」
「……」
はあ、と観念した七海が大きな溜息を吐く。新聞を閉じてローテーブルの上に置いた。
ふふんと満足げに笑うあきらは正直これで十分気が済んだのだが、律儀な男はしばらく考え、それから口を開いた。
「……事務的なことは高専でやるでしょう」
「まあそうだろうけど」
「そもそも法的な関係にはなってません」
「そうなんだけどさー」
突き放すような七海の言葉にまた拗ねかけたあきらを見て、七海はですが、と続けた。
「そうですね、しばらく新しい恋人は作らないでください」
「…………」
「何ですか」
「いや、ちょっとびっくりして」
ちなみにどれくらい?と目を丸くしたままのあきらが聞くと、七海は少し考え込んでから、三年は、と言う。
「結構長いじゃん。なんで三年なの」
「……付き合ってからそれくらい経つでしょう」
「おぉ?」
じゃあ来年なら四年になるわけだ!と理解したあきらがニヤニヤ笑う。七海の肩を嬉しそうにバシッと叩いた。