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七海とピロートークがしたい

七海に触れられるのが好きだ。大きな手のひらが肌の上をすべれば、それだけで胸がドキドキし始める。ベッドの横の頼りない照明に照らされた七海の顔を見るのが好きだった。自分に欲情しているんだと、確かにわかるその表情に、下腹が疼くから。
七海に抱かれるのが好きだ。何もわからなくなるくらいどろどろに溶けていくのが、こわくて、気持ちが良くて、幸せでたまらない。

「寝ましょうか」

ベッドサイドのデジタル時計が光って、今の時刻を告げている。深夜といっていい時間だった。
明日はお互い朝から別の仕事があるし、体は心地よい疲労感に包まれ、隣には心から安心できる相手の体温があった。寝ない理由はひとつもない。
でも、あきらはちょっと、わがままが言ってみたい気分だったのだ。

「やだ」
「寝ます」

短く切り捨てられた。冷たい。
七海はあきらを無視して布団を被り、目を瞑って眠る体勢に入っている。だがそこで引き下がるあきらでもない。前髪が降りて少し幼くなった寝顔をじいっと見つめ、高い鼻をぎゅっと指で摘んだ。眉間に皺が寄ったので、あきらはくつくつと喉を鳴らして笑う。

「……その笑い方、やめませんか」
「なんで」
「嫌な人を思い出すので」
「やだ」
「あきらさん」

窘めるような七海の呼びかけは無視して、「たまにはピロートークでもしませんか」とお伺いを立ててみる。七海が目を開けた。

「残業代ならお支払いしますので」

からかうみたいに丁寧な口調で付け加えたあきらを、横目で見たかと思えば、体勢を変えてこちらを見つめた。ようやく相手をしてくれる気になったらしい。大きなため息は諦めたと同じ事なので、あきらは勝利を確信した。

「……野暮なことを言わないでください」

そう言った七海が、あきらの細いからだを抱き込む。
普段は堅苦しいスーツに隠れている、逞しい七海の腕が、背に回されるその瞬間の何と幸せなことか。無邪気にやったーと喜んでから、あきらは七海の胸に頬ずりをした。