お金には価値がある。
なにせお金があれば要相談で結構なんでもやってくれる人が身近にいるので、夢があっていい。
「冥さん、推薦ください!」
折り入ってお話が、と呼び出したちょっとお高めの喫茶店は、目の前に座る女性によく似合っていた。
頭を下げながらずいっと通帳を差し出したあきらを、おやと目を丸くして見つめ、あきらが尊敬してやまない人はそのまま差し出された通帳に視線を移す。
白い綺麗な手が伸び、あきらのここ一年の努力の結晶を冥がまじまじと見る。
結構貯めてるじゃないか、と面白そうに笑った。
「……最近の評判は聞いてるよ。私にわざわざ推薦させなくたって、他のやつがするだろうに」
「そういう話もありました。でも断りました」
「ふうん?」
「冥さんの推薦がいいんです」
いつかの任務で危ないところを助けてもらってから、あきらにとって冥は憧れの女性だ。
呪術師の家系に生まれ、ただ術式が使えるからと言うつまらない理由で漫然と生きてきたあきらにとって、彼女との出会いは大きな転機だった。
等級だってそうだ。数年前までは二級だろうがなんだろうが、仕事に支障がないならそれでよかったのに、今のあきらは一級術師になって冥の横に並び立ちたいと願って止まない。他でもない冥の推薦ならどんなにいいかとも思っている。
幸い冥はお金次第でお願いを聞いてくれる人だと知っていたから、この一年、仕事に節約にとあきらはとても頑張ったのだ。
同期は金で頼むとかアリなの?とぼやいていたが、相応の実力を持つ自負はあった。ただ推薦してくれる人を選ぶだけ、選ぶにあたってお金が必要になるだけだ。
あきらの縋るような視線を冥は笑ってかわし、君も変わった人間だねと言う。
「まあ構わないけれど」
「やったー!!」
正式に話を通しておくよ、と冥は続けた。
大きくガッツポーズをしたあきらを子供を見るような目で微笑ましく見守って、少し冷めた紅茶に静かに口を付けている。
「……しかし奇遇だなあ」
「え? 何がですか?」
「私もそろそろあきらを推薦しようかと思っていたところだったから」
「え」
「ああ、貰えるものはありがたく貰っておくよ」
にっこりと冥が前髪の奥で笑った。
え、とガッツポーズもそのままに固まるあきらに向かって、口座はあとで送っておくから、と告げる。
尊敬する女性の綺麗な笑顔を見ては、疑問の言葉さえ満足に沸いてこない。はい、いや、ええ……?と混乱気味にしている後輩をよそに、冥は上機嫌で紅茶のおかわりを頼んでいた。