「緑間!」
大きな背中に声をかけると、びくっと一度身を震わせ、一拍置いてから振り向いた。いつもと変わらない、やたら整った仏頂面が私を見下ろしてくる。
「悪いけど、ちょっと手伝ってよ」
同意を得る前に身体を反転し、歩き出すと、少し遅れて後を追ってきた。戸惑うように踏み出される一歩目がおもしろい。
「何を手伝えばいいんですか」
「OBから差し入れが届いてさ。みんなに配らないといけないんだけど、運ぶのがね」
重いんだこれが、と言うと、少し沈黙が続いた。
緑間に許された三回のわがままのうち、私の記憶によると今日はまだ二回が残っている。別にその特権を利用して断るなら断るで構わない。他の部員に頼むだけの話だ。
でも緑間は結局なんにも言わず私の後をついてきて、スポーツドリンクの入った段ボールを一緒に運んでくれた。
体育館まで運んで、よいしょっと床に荷物を下ろしてから、「ありがとうね」と緑間に笑顔を向ける。いえ、と返す耳が少し赤かった。
「緑間、おもしろいよね」
「はあ?」
「誠凛に負けてから、ちょっと変わったよ」
負けたことで責任でも感じたのか。
チームの人間に遠慮することを覚えたような気がする。
最近は三回のわがままを使い切らずに一日を終えることも多くなってきた。相変わらずおは朝のことになると頑固だが。
「最初から今までずっと、変だし生意気だしある意味おもしれーよ、あいつは」
差し入れのスポドリを呷りながら宮地が言う。眉間に皺をよせたいつもの顔だ。後輩について、当人たちがいないときに話すとだいたいこんな顔になる。
宮地もなかなか素直に人のことを誉めたり、認めたりするのが苦手な質なのだ。三年目にもなるとさすがに承知している。
「私でも気づくのに、一緒にプレイしてる宮地がわからないわけないでしょ。素直じゃないんだから」
「……うるせー」
緑間は中学の三年間を、普通でない人たちと一緒に普通じゃない人間として過ごした。
高校に上がって今更、チームというものが何なのかを一から学んでいる。だからとってもぎこちない。
少しずつ少しずつ、緑間はおどおどとこっちに向かってきていて、私たちは彼をそれぞれのやり方で受け止め始めている。
高尾は諸手を上げて。大坪と木村は、ため息をつきながら。そっぽを向いて、興味のないふりをしている奴もいるけれど。
私も同じだ。
明日も何か頼もうか。断られるかもしれないけれど、素直に手伝ってくれたなら、おしるこでもおごってあげようか。そしたらまた、お礼を言われるのも、言うのも慣れていないらしい我がチームのエース様は、顔を赤くして口を開くのだろうか。
「……どうしたんだよ」
「ん?」
「顔、なんかヤバイ」
「ヤバイってひどいな。冬が楽しみだなあって考えてただけだよ」
きっとそれまでには、いいチームができあがっていると思うのだ。