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おは朝中の人とチャリア組/krbs

おは朝の星占いと言えば、マドモアゼル紫なる怪しげな名前の占い師が担当を務める、ありふれたニュース番組の一コーナーである。
ただしこれ、巷では不思議と当たるだのラッキーアイテムが鬼畜だのと、やたらと話のネタになっていて、他の朝番組に視聴率で差をつけている、らしい。某大型掲示板には専用のスレッドが立てられていて、やれ順位の法則性はとか、マドモアゼル紫とは一体どんな人物なのかとか、今日も匿名の人間達が好き勝手議論を繰り広げている。

「あ。やばい、八時だ」

私こと高遠あきらは机の上のデジタル時計を見ると、慌てて見ていた動画を停止しメールのマークをクリックした。鞄の中をごそごそ探って手帳を取りだし、ノートパソコンの横で開く。我ながら呆れるほど汚い殴り書きの字を眉を寄せながら解読し、キーボードを叩く。一位は双子座、今日は何もかもうまくいく一日、ラッキーアイテムはポラロイドカメラ。二位は……えっとこれなんだ。いいやもう。後で消去法でわかるだろ。三位………読めない……。
駄目だもう駄目だ。締め切りは八時半、あと30分しかない。解読作業を諦めた私は手帳をぽいっと捨てて、鼻歌を歌いながら適当にそれっぽいことを書いていった。最初からこうすればよかった。最後に重複していた射手座を書き直し、最終チェックをして送信ボタンをクリックする。これで今日の役目は終わりだ。

……とまあ、もうおわかりかもしれないが、私がマドモアゼル紫の正体である。
事の起こりはウン年前だ。ある日の企画会議で、視聴率をあげるための新要素の一つとして、占いコーナーが上げられたのである。しかし有名な占い師さんに頼み込んでコーナーを担当していただき、さて早速始めるぞワーイという時になって、占い師が倒れた。しかも長期の入院が必要だという。今更別の人間を用意するにしても時間がないし、大体後釜なんて変にプライドの高い占い師なんて人種が素直に受け入れてくれるはずがなかったのだ。途方にくれたディレクターは、ちょうどパシらされて、コーヒーを買い戻ってきたばかりの新米AD、私の肩をポンと叩き、言った。「お前やれ」と。
そんなこんなで私はマドモアゼル紫なのである。なぜ紫かってその時着ていた服が紫だったからだ。なぜマドモアゼルかってなんか占い師ぽいなと思ったからだ。
もちろん私は普通に勉強して普通に大学を卒業した趣味読書の一般人でしかなかったので、占いなんてやったことはなかった。星空を見てもあー星だとしか思わないしタロットはトランプと違うってことしか知らない。
必然、私の占いは適当であった。
今日一位が乙女座だったから明日は十一位あたりかなとかバランスを考えた順位をつけるし、ラッキーアイテムはその時欲しかったものとかそんなんだ。いやでも侮られては困る。ちゃんと法則のある占いと違って、一から十まで思い付かなくてはいけないというのは案外疲れるものなのだ。だがしかし適当であることにはかわりないので、その時はこれはすぐにクレームついて終わるなと思ったのだが、なんていうか。
予想に反してウン年間も続いてしまっている。まあそれも当たり前の話であるかもしれない。見ている人間が多ければ多いほど、適当に言ったことが当てはまる人間も多くなるのだ。あと占いが外れたからって怒る人はそんなにいない。
終わるどころか好評を博し、転職した今でも任されているくらいだ。

まああれです。
マドモアゼル紫は現役女子高生の天才少女だとか言って萌え萌えしてる皆さんごめんなさい。実際はパックしながらくたびれたスウェット着てパソコンいじってるギリ二十代です。

 

メールを元上司に送ったあと、また動画漁りに精を出していたら寝るのが遅くなってしまった。よろよろとベッドから抜け出して歯を磨き顔を洗う。目の下の濃い隈をコンシーラーで隠し、他にも色々塗りたくって家を出た。普段より少し遅くなったが、出社時間にはまだ余裕がある。朝の光に焼かれながら、慣れた道を歩く。その途中。

「……?リヤカー?自転車?」

前方によくわからないものを見つけて眠い目を凝らした。それでもよくわからない。自転車に、くっつけられたリヤカー。え、何のために?そしてそれが立派な庭付き一戸建ての前に停められている。は?何のために?
思わず立ち止まった私であるが、ギャーギャーという言い争いが聞こえてきて我に還った。

「真ちゃん!さすがにそれはやめとこうぜ!無理!先輩も監督も先生も怒るって!」
「ラッキーアイテムの持ち込み許可は推薦に応じる条件の一つだった。文句を言われる理由はないのだよ」
「いや限度ってもんがあるだろ!?でかすぎるって邪魔だって」
「今日の蟹座のラッキーアイテムは大きなぬいぐるみだ。俺は人事を尽くす」
「いつかの熊も十分でかかったじゃん!あれにしようよ!」
「馬鹿め。おは朝のラッキーアイテムは大きければ大きいほど効果が上がるのだよ。今回はさらに大きなと注釈がついている。これくらいでなくては」

ドスン!と数メートル離れた私のところにまで聞こえるくらいの音を立て、成人男性ほどもあるうさぎのぬいぐるみが、リヤカーの上に乗せられた。いやもうぬいぐるみってレベルじゃないな。着ぐるみの人が入る場所に綿詰めましたっていう感じだな。
黒髪の今時っぽい男の子と、すごく背の高い緑の髪をした男の子がまだぎゃいぎゃい騒いでいるのを聞きながら、私は思った。学ランってやっぱいいな。違った。ラッキーアイテム大きいと効果あるとか言ったことないぞ。そして決意した。明日の蟹座のラッキーアイテムは小さい何かにしてみようと。