「君に頼みがある」
王子の名を持つその人が、珍しく話しかけてきたことに、隠岐は少し驚いている。顔に出ていないので、向こうにはきっと悟られてはいないだろうが。
「はぁ。なんですか」
「隠岐くん、弟子はいるかな?」
「いませんけど……」
「それならよかった!」
途端に両肩を掴まれ、にこっと満面の笑みを浮かべた整いすぎた顔が近づいてきて反射的に後ずさる。なんというか、勢いのあるタイプは自分のところの隊長である程度慣れているのだが、地域差なのかなんなのか嵐山や王子のような勢いはどうしてか少し苦手である。
「あきら!」
肩を掴んだまま、少し振り向いて嬉しそうに知った名前を呼んだ。
するとひょこり、と小さな顔が、遠慮がちに王子の陰から顔を出す。
頼りになる隊長の後ろに隠れていたらしい。服を掴んだまま、大きな瞳が戸惑いがちに見上げてきている。
「……え、弟子って、この子を?」
「そうだよ!うちの秘蔵っ子だからね、くれぐれもよろしく頼む」
「いや待ってくださいよ」
「君も知っての通り、生憎ぼくの隊にはスナイパーがいないし、よそに頼むしかないんだ」
「待ってっていうてますやん?」
この間吹っ飛ばした頭だ。目が合うとぴゃっと肩を跳ねさせて、王子の後ろに隠れてしまった。
「なんで俺なんですか」
「この子が君がいいと言ったんだ。隊長としては隊員が望むことをなるべくしてやりたい」
「この子が?」
「ほらあきら、隠れていないで、いい加減挨拶をしなさい」
「……」
おそるおそる。
こわごわと、あきらが保護者の後ろから抜け出して、もじもじしながらこっちを見上げた。
ぺこり、と深く頭を下げて、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「高遠あきらです」と言う。
王子がうんうんと満足げに頷いた。
「……まあ、強制はしないけど、できれば受けてやってほしいんだ。見ていてわかるかもしれないが、彼女は人見知りでね。親しい友人もあまりいないようだし、ぼくとしては心配なんだよ」
「……」
隠岐は少し考えて、あきらを見下ろした。目が合うとぴゃっと下を向いてしまう。次に視線を移した王子は、にっこりと綺麗に笑った。なんとも対照的な隊長と隊員である。