百鬼夜行は失敗だった。
少なくとも、あきらたちの頭目、夏油傑の目的は果たされなかった。
インカムから焦った声で撤退を申し渡された時にあきらが考えたのは、家族を逃がさなければ、ということだった。
血のつながりはないけれど、あきらたちは家族だ。そして家族は助け合い、守り合うものなのだと、夏油はいつもとても嬉しそうに教えてくれたから、いざその必要が芽生えた時にも迷うことはなかった。
家族たちを先に逃がした、自分は力の限り暴れてやった。
一人でも多く足止めすることに夢中で、数はわからないが、術師も補助の人間も含めて相当数を殺したと思う。
自分より格上の呪術師にとうとう取り押さえられても、あきらはちっとも怖くなかった。家族は全員逃げおおせたと、理解していたからだ。
「ざまあみろ!!」
身動き一つ取れない状態で叫んだそれは、勝利宣言でしかなかった。
自分一人捕まろうが、そんなことはどうだっていいことだと、思っていた。
「やあ、久しぶり」
「…………」
「伊地知に聞いたんだけど、何でご飯食べてないの?ダイエット?若いうちからそういうことしちゃ駄目だよ、成長期なんだしさ」
あきらが閉じこめられている部屋に入ってくるなり、サングラスをかけた黒ずくめの怪しい男はどうでもいいことをまくし立てた。
あきらは一瞬顔を上げて男を見たが、すぐに興味をなくし、部屋の隅に座ったまま元通り顔を伏せる。無気力なあきらの様子を見て、五条と言う名前らしいその男が、これ見よがしに溜息を吐いた。
「捕まったばかりの時はあんなに元気だったのにねえ」
「…………」
「そんなに、アイツが死んだのがショックかな?」
うるさい、という気力さえもうない。
捕まった後、夏油が亡くなったと聞いてからはずっとこうだ。
あきら、と呼んでくれた優しい声、頭を撫でてくれた大きな手、助けてくれた時の笑顔、家族だと言ってくれた時のこと、全部全部思い出せるのに、夏油はもう死んだのだとあきらは教えられた。
それならあきらの家族はもういない。
あきらが身を挺して逃がしたあの人たちは、夏油が繰り返した、私たちは家族だという言葉で繋がっていた。
その夏油がいないのなら、
あきらはもう、ひとりぼっちだ。
「…………」
じわじわとこみ上げてきた涙が、袖に染み込んでいく。げとうさま、と堪えきれずに漏れた声を、五条は静かに聞いていた。
「夏油様がいないなら、」
――もう死にたい。
誰に聞いてもらいたいわけでもない言葉が、あきらの口からこぼれて消える。
「…………はは、わかるよ」
乾いた声が部屋に落ちる。
「傑がいないとつまんないよね」
その言葉の真意を尋ねるような余裕は、嗚咽を堪えるあきらにはなかった。
聞く気も聞かせる気もない二人の言葉はどちらも独り言だ。何故ならあきらも五条も、もうひとりぼっちなのだから。