※学生時代
高遠あきらが死んだ。死んだというのに、残された側の夏油達は悲しむどころではなかった。なぜなら彼女が死んだ翌日の朝、呪霊となったあきらが照れくさそうにえへへと笑って教室に現れたからである。
呪術師は死んだあと呪いに転ずることがある、と知識としては知っていても、他者の呪力がその死の原因となっていなかった場合の話だ。呪術師という職業柄、死因はほとんどが呪霊か呪詛師になるということもあり、実際にその現象を目の当たりにすることはほとんどない。なのにあきらはもう燃えて骨になったはずの体で、制服を着て現れた。気まずい時に目を泳がせる癖も、その身に宿る呪力も生前のそのままだ。
「えへへ……来ちゃった」
どこ行ったらいいか思いつかなくて、と言い訳めいたことを言うあきらの処遇については上層部の判断次第となる。
少しして当たり前に呪いとして処分するようにと命令が下ったが、それに大人しく従うようなものは同学年にはいない。五条家の権力や夏油の外面、それからそれとなく力を貸してくれた夜蛾のおかげで、あきらは条件付きで高専に身を置くことを許される。
一つ、反転術式を治療に転用できる家入硝子のそばで、護衛役を務めること。
一つ、
「ねえほんとにやらなきゃだめ……?」
「そう決まったからね」
「いいじゃん、痛いわけでもないんだろうし」
夏油傑と契約を交わすこと。つまり、夏油の呪霊操術で、コントロールできる対象にしておくこと、である。
「取り込まれたらどうなるの?夏油に服従するってことだよね?」
「まあそうだけど」
「どんな命令にも逆らえなくなるってことでしょ?怖いんだけど」
「別に非人道的なことはしないよ」
「そんなのわかんないじゃん!元同級生服従させて楽しむ性癖持ってるかもしれないじゃん!」
夏油にとって不名誉な憶測を必死に主張しながらあきらが二歩三歩と後ずさる。その分追いかけるように前に出つつ、夏油は笑顔で圧をかけた。ひえ、とあきらが顔をひきつらせる。随分な言いようをされているが、別に夏油が望んだわけではない。これしかあきらをここに残す方法がなかったのだから仕方がないだろう。それでもやだやだと首を振るあきらを追いつめるように、「呪霊って普段どこにいんだろうな」と五条が暢気な疑問を口にした。
「なんかいつもよくわかんないところから出てくるよね」
「傑怒らせたら閉じこめられたりして」
「……!!!」
「硝子も悟も止めてくれ。あきらも、そんなことはしないって約束するから」
無条件で取り込めるほどの力の差はあきらとの間にはない。だから早く承諾してほしいのだが、あきらは「そういえば飲み込まれるんじゃんやだやだやだ」とますます頑なになって後ずさる。このままでは無理矢理降伏させるしかなくなるので、早めに観念して欲しいのだが。