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伊地知の見間違い

電柱の陰に白い猫がいるのが見えた。深い夜の中、わずかな照明に照らされてぼうっと浮かび上がるその猫の方に向き直ると、伊地知はしゃがんでちっちっと舌を鳴らしてみる。
担当している呪術師が戻ってくるまで暇だった。もちろん命を賭けて戦っている呪術師たちのことを思えばそんなことはあまり言っていられないのだが、今日はそこまで身構えるような任務内容でもなかったので、なんというか安心していた。

「……伊地知さん」
「わあっ」

とすっかり気を抜いていたところに後ろから声がかかった。こけそうになったのをなんとか持ち直し、立ち上がって「お疲れさまです」と笑顔を向ける。
それとなく目の前に立つあきらの様子を確認するが、特に怪我もなさそうでほっとした。あきらはいえ、と短く答えると、伊地知が見ていた電柱の方に視線を向けた。「何してたんですか?」と質問される。

「あ、ああ、猫がいまして」

伊地知が答えると、あきらはスタスタと歩き出した。猫のいるあたりにたどり着くと、ふっと伊地知を振り返る。

「伊地知さん、これ、ビニール袋」
「え」

疲れてるね、と大変同情的な視線を、十も年下の女の子からいただいた伊地知であった。