※学生時代
担任の先生は切羽詰まった用事があるらしい。
呪術師は常に人手不足だし、一級ともなれば重責があるのだろうから、そこは仕方ない。
「……えっと、高遠あきら、です」
紹介もなく一人で教壇の近くに立ったあきらは、辿々しく名前を名乗った。
注目を集めてくれる人もいないから仕方がないのだが、誰も大して興味はなさそうで、唯一の女子生徒なんてうとうとしている。
ちょっと不安になりながら、よろしくお願いしますと席に着く三人に向かってあきらは深く頭を下げた。
「ウワー、弱そう」
と同時に、失礼な声が聞こえて思わず顔を上げる。
目をまん丸にして声が聞こえた方をまじまじと見ると、サングラスを掛けた男子生徒がわざとらしく横を向いてピューピュー口笛を吹いていた。
特に隠す気はないらしい。
「悟」
隣に座った男子生徒が窘めるような口調で言ってから、あきらを見つめて人当たりよく笑う。夏油傑、と彼は自己紹介をしてくれた。
「こっちは五条悟。見ての通り人見知りだから、最初は色々と面倒だろうけど」
「ハア?俺がなんだって?」
「悟は知らないかもしれないが、初対面の人間相手に攻撃的だったり消極的だったりいつも通りに振る舞えないような人間のことを、日本語では人見知りと言うんだよ」
「俺はいつも通りだろ?なあ、ええと、高遠」
紹介がしたいのか口論がしたいのかわからない。仲がいいのか悪いのかも。
成り行きを見守っていたところに突然名字を呼ばれ、あきらはおそるおそる口を開いた。
「……なんですか」
「何級?」
「さ、三級」
「ほらやっぱり弱いじゃん」
随分はっきりと、しかも指までさされ、あきらは流石に落ち込んだ。「悟、いい加減にしろ」と夏油の声色が少し厳しいものになる。
うええと嫌そうな顔で、五条が舌を出した。
「いい人ぶっちゃってさ。傑のそういうところムカつくんだよなあ」
「気が合うね。私も悟のそういう露悪的なところには虫酸が走る」
空気が段々と険悪になっていく。
え、え、とあきらが二人を見比べて目を白黒させているところに、ちょんちょんと細い指が腕をつついた。
「逃げるよ」
「へ」
「ここにいたら巻き込まれる」
ずっと席でうとうとしていた女生徒だった。完全に眠っていると思っていたが、すっかり目が覚めたらしい。
状況をよくわかっていないあきらに焦れたのか、彼女はあきらの腕を掴んで歩き出した。
「私、家入硝子ね」
「わ、私は」
「あきらでしょ。よろしく」
ちゃんと聞いていたのか。
次第に足は速まって、たったっと軽快に走りながら、家入はまだ挙動不審なあきらを振り向いて、「硝子でいいよ」と笑ってくれた。
後にしてきた教室からは、物が壊れる音が聞こえてくる。
何が起こっているのかはあまり想像したくない。
不安は山ほどあるけれど、あきらはなんとか頷いて、「よろしく」とぎこちなく笑い返した。