※学生時代
宿泊が伴う実習だった。夕飯はご自由にどうぞと、放任主義気味の補助監督は疲れ切った顔でさっさと部屋に入り、その疲れた原因であるところの生徒たち四人が顔を見合わせる。
「どこか食べに行く?」
「近くにファミレスとかあったっけ」
あきらと硝子が首を傾げていると、五条が妙に明るい声でいいこと思いついた!!と叫んだ。本人を除き、三人が三人ともうわっと言う顔をする。テンションが高い時、五条は大抵ろくなことを言わない。
「なんだよその反応」
「気にするな。で、何を思いついたんだ」
ムッとした五条を夏油が素早く宥め、気を取り直した五条が整った顔でニッと笑った。
「ジャンケンしよう!」
「…………なんで?」
「負けたやつがパシリでみんなの晩飯買ってくんの」
「……それ楽しいの?」
怪訝な顔のあきらになんか文句あんのと五条が絡んだ。五条の押しの強さは筋金入りだし、こちらが反発すれば反発するほどムキになることは同期なら誰でも知っている。結局三人がため息混じりに引く形になった。
「じゃあやんぞ。ジャンケン……」
一人ご機嫌な五条が音頭を取り、四人はそれぞれ思い思いの手を出した。
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「それで、悟」
「なんだよ」
「晩御飯を買ってくるという話じゃなかったかな?」
「買ってきたじゃん」
結局負けたのは五条だった。
二回目のあいこで一人負けした五条はゲェッと叫び、ぐちぐち文句を言ったものの、自分で言い出したことではあるので比較的大人しく外へ出て行った。
そうして五条と夏油が泊まる部屋に集まり、五条が買ってきた晩御飯を目の前にして、あきらたちはため息をついている。
ドーナツだ。有名なチェーン店のドーナツの袋。それが二つ。
開けてみた一つ目の袋には、見るからに甘そうなドーナツがぎっしり入っていた。
しかし本人的にふざけて選んだつもりはないらしい。何を買うか指定しなかったし、選んだのは甘いものが好きな五条だし、まあ仕方がないかとあきらなんかは思っているが、夏油はそうではないようだ。
「これはどう考えてもおやつだろ」
「文句があるなら食うなよ」
ぐちぐちやり合っている二人を眺めて止めるかどうか考えていると、「あきら」と硝子が制服の裾を引っ張る。なに、と顔を向けたら、ドーナツの袋を開けた硝子があきらに中身を見せてきた。
「こっちの袋はあんまり甘くなさそう。先に食べよう」
「……そうだね。部屋戻ろっか」
「そうしよう」
言うなり袋を一つ手に取った硝子に苦笑いを返して、諍いが続く部屋を二人でそろそろと抜け出した。
「なにも壊さないといいけどねえ」
「ほんとにね……」
不安になりながら扉を閉める。
あきらの部屋は硝子と一緒だ。こっちは向こうの二人と違って、平和な部屋になりそうだった。