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夏油と先輩

※学生時代
 

「私こう行くから」

その辺から拾った棒で地面に線を描きながらあきらは言った。砂の上にはよくわからない線がのたくっていて、夏油は素直にわかりません先輩、と伝える。

「ミミズの絵ですか」
「は!?どう見てもあんたと私ですけど」

どう見ても死にかけのミミズ、よくて呪霊だ。
そのミミズたちの部分部分を丸で囲んで、あきらはこっちが夏油、こっちが私と説明を加えた。本人は真面目に描いているつもりらしい。
後で写真を撮って悟に送ってやろうと夏油は思う。きっと飲み物を吹き出すなりして盛大に笑ってくれるだろう。

「で、事前の宣言に何の意味が」

組手をしようかという時だった。
あきらは体術に秀でているから、時々こうやって時間を見つけては夏油と練習を行う。夏油には才能があったが、二年ほど先を行く先輩に追い付くにはまだ経験が足りない。毎回胸を借りているような状況だった。
あきらはフンと笑って、「動きが予想できる相手に勝つ練習」と言う。

「……へえ」
「私は動きを予測された上で勝ち切る練習」
「ハンデのつもりですか」

舐められているならそれは不快だ。ニコリ、と笑いかけると、あきらもニヤリと笑顔を返した。不敵な笑みだった。

「勝てたら逆でやる」
「じゃあ次は交代ですね」
「そう簡単に行くかな~」

ケラケラと腹の立つ笑い声を上げて棒をそこらに放り投げ、あきらはゆったりと構えた。二、三歩引いた夏油は頭の中で先程あきらが描いた下手な絵を思い返している。

「術式は」
「有り!」

その言葉が、始まりの合図だった。