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野薔薇と従姉妹

田舎にうんざりして東京に出て行ったのは、何も野薔薇が初めてではなかった。
大昔に、じゃあ野薔薇も元気でね~と輝かんばかりの笑顔を浮かべ、泣き喚く自分を置いて行った従姉妹の後ろ姿を思い出し、野薔薇は眉間にキュッと皺を寄せる。苦い思い出である。

目の前に座る本人はといえば、出て行った当時よりもしっかり垢抜けて、さっき並んで買ったタピオカジュースを啜りつつ野薔薇を見て、しきりに感心している。

「は~~っ、あの野薔薇がねえ」

何が『あの野薔薇』だ。
あのもこのもあるか。

「すっかり大きくなっちゃって」
「当たり前でしょ。何年経ったと思ってんのよ」
「髪もオレンジ」
「……」
「似合ってんじゃん」

あきらを見つけるのは大して難しいことではなかった。
一般人でしかなかった友人とは違い、あきらはどこに行ったとしても呪術師として生きている。
くわえて東京に行きたくて出て行ったのだから、当然高専に籍を置いていた。
伊地知に尋ねればすぐに所在は割れ、連絡も取れ、数日もしないでこうして会う機会を作ることまでできてしまう。心の準備もないのにだ。

「昔はこんなに小さくて」

指先でつまむような仕草をあきらがした。いくらなんでもそんなに小さくはない、と野薔薇の眉が引きつった。

「いつも私の後ろついてきてさぁ」
「…………」
「私の持ってるもの見てはこれのばらの!のばらのにする!って泣いて…………あれ、よく考えるとウザくない?」
「うるっせえな!」
「冗談だって」

なんか怒りっぽくなってない?とあきらは一頻り笑った。
ストローをくわえ、ずずっとジュースを啜る。野薔薇も無言で自分の分のタピオカミルクティーを飲んだ。

――あきらを探して、会って、何を言ってやりたかったのだろう。
その答えがわからないままに、あまりにもトントン拍子に機会はできてしまった。
だから野薔薇は言葉を持たない。会いたかったとも言えないし、恨み言を言うこともできなかった。

「野薔薇」
「……何よ」

あきらがにぃっと笑いかけてくる。

「東京は楽しいぞぉ」
「……知ってるわよ」
「まあ手始めにディズニーかな。今日は服買って、来週あたり行ってみるか」
「は?」
「入学祝いにお姉ちゃんがおごってあげる」
「…………」
「というわけで、そろそろ行くよ」

上機嫌なあきらが立ち上がった。鞄を掴み、楽しげな足取りでどこかへ歩いていく。不意を突かれた野薔薇はしばらくポカンと口を開けて、あきらの後ろ姿を呆然と見た。
野薔薇の気配がないことに気づいたあきらが、少し先で、首を傾げて振り返る。

「野薔薇ー、どうした」
「な、んにも、ないわよ!」
「なんで怒ってんの?」

立ち止まるあきらに追いつくために、野薔薇は急いで立ち上がった。鞄をひっ掴み、机の上に置きっぱなしだったスマホを手に取る。
あきらはそんな野薔薇を見て、不思議そうな顔をしていた。
あの日と違って、野薔薇を待って。