※学生時代
「術式反転」
その言葉を聞いて、あきらは自分の目の前にいた呪霊のことを一旦置いて後ろに下がった。
五条の術式は派手なのだ。こんな壊れても構わないような廃墟でのことなら尚更、建物が壊れないようになんて気は遣わないだろうし、となれば万が一にも巻き込まれないよう、自分で気を配るしかない。
一番の安全圏だろう五条の後ろにまで下がってその時を待つ。
「…………」
待った。
「……五条、まだ?」
「…………」
格好をつけたポーズのまま、五条が固まっている。少し警戒して引いていた呪霊も向こう側で固まっていた。
「…………失敗?」
「…………」
「そんなことある?」
五条がすっと腕を下ろした。何も言わず眉間にしわを寄せる同級生を見て、笑いが腹の奥からこみ上げる。
廃墟にマジで!!?とあきらの大声が響き渡り、笑声が続いた。
「あんだけカッコつけといて!?えっ面白すぎない?動画撮っときゃよかった」
どうしてここには自分しかいないのだろうとあきらは思った。夏油でも硝子でも先生でもいい、この笑いをどうにかして誰かと共有したい。
腹を抱えて笑っている間も五条は無言だ。
ただしその整った顔に、ピキピキと青筋が立ち始めている。あきらは笑うのに夢中で気づいていない。
「普段から最強とか言って訓練サボるからそうなるんだって、ひーーっおもし」
ドン。
言葉の途中で耳の横を轟音が通り過ぎた。ひ、と怯んだあきらが恐る恐る振り返ると、さっきまであった壁が一部吹っ飛んで、大きな風穴が空いている。
「…………」
「横に呪霊いた」
五条がやたらといい笑顔でそう告げる。あきらはギギ、とぎこちなく首を動かして、五条を見た。
さっきと全く同じポーズ。
はっきり違うのは、術式を成功させていることだ。
「で、誰がなんだって?」
果たして本当に隣に呪霊がいたのかはわからない。
同級生の笑顔に恐怖を覚えたあきらは、わいた疑問を押し殺し、神妙な表情で、何でもありませんと返した。