書類仕事に追われていた伊地知の眼鏡を、あきらがひょいと取り上げる。驚いて見た先ではあきらが奪った眼鏡を掛けていて、「度入ってないじゃん」と不満そうに言った。
「少し入ってますよ」
呪術師にも補助監督にも、眼鏡などで視線の行く先を隠しているものは多い。呪霊対策である。
伊地知も同じようなものだ。眼鏡がなくたって生活に支障がないくらいの視力はあった。
「そうなの」
「どうしたんですか、いきなり」
どこかがっかりしたような様子を見て問いかける。あきらが溜息をついた。
「割ったら仕事できなくなるかなって」
「…………」
「でもいいや。意味なさそうだから返す」
はい、と差し出された眼鏡を、伊地知は受け取って元通りかける。無事に戻ってきてよかった。
そうしてさっきよりはっきりと見えるようになった視界の中で、こちらを見つめる同僚の名前を呼んだ。
「高遠さん」
「うん」
「少し休憩しましょうか。何か飲みたいものは?」
「……紅茶がいい」
「わかりました」
随分心配をかけていたらしい。立ち上がった自分を見て、あきらの表情が柔らかくなる。くすぐったいような照れくさいような、そんな感覚を、伊地知は抱いた。