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硝子先輩がひどい

※学生時代

追いかけてこない。
壁から顔を覗かせて、さっきまで相手をしていた呪霊の様子を窺った。異形は少し遠くに留まって、動く気配もなかった。元より呪霊は場に憑くものだ、当然なのかもしれない。
あきらはとりあえずほっと息を吐き、近くで壁を背にして座り込んでいる硝子に声をかけた。

「いけそうですか?」
「……」

いつも飄々としている先輩は足から血を流し、綺麗な顔にも打撲の跡がある。制服が煤けているのはお互い様だ。
あきらの方も無傷ではなく、折れた利き腕を無事な方の手で抑えている。

「いけないこともない」

結構切羽詰まった状況だというのに、落ち着いた声で硝子は言った。ごそごそとポケットから何を取り出したかと思えば、いつもの煙草だ。あきらがじろりと硝子を睨んだ。

「先輩」
「呪力も残ってるけど、アレとは相性が悪いな」

ふう、と口から紫煙を吐いて、あきらに視線を向ける。嫌な予感がした。

「おいで」

硝子は嫌々近づいてきたあきらの腕に手を当てた。
呪力が練られたかと思うとみるみるうちに痛みが引き、あきらは目を見開いた。反転術式を学んでいるとは聞いていたが、実用の域に達していたとは知らなかった。
すっかり元通りになった腕をあきらがなんともいえない顔で見た。グーパーと手を動かしてみても何の問題もない。いつも通りの自分の腕だ。

「行ってこい」
「……」
「駄目そうだったら死ぬ前に戻ってきて。生きてる限りは治してあげる」

倒せるまで頑張れ、と硝子が言ってのけた。

「…………」

改めてこの先輩の性格ってどうなんだと言いたくなったあきらだったが、同意をもらう相手なんてここにはいないのだし、助けが期待できないこの状況で生きる道が他にないのも確かだ。
肩を落とし、しかし利き手にしっかりと自らの武器を握って、元気になった体で呪霊の方へと歩き始めた。