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夏油の馬鹿

※学生時代
 

夏油はキスをしてくれない。おかげであきらの唇はずっと清いまま、純潔を守り続けている。
もしかして嫌われているのかと思ったこともあったけれど、好きだと言うと柔らかく笑って私もだよと返してくれるし、体を寄せ合うことも拒否はされない。ふと二人きりになった時に、ぎゅっと抱きしめられたりもする。
だからあきらはただ不思議だった。なんでかなあと思っていた。
 

ごくん、と夏油が呪霊を飲み込むのを見た。

真っ黒い玉のようになったそれを、夏油は無表情のまま飲み込んでいる。端で雑魚掃除に励んでいたあきらは、そういえばそうしているのを初めて見たなと思って、それでふと全てを理解した。
ピンときた、というやつだ。
全部繋がった。そういう前提の元に今までのことを考えていくと、あるべきところに嵌るパズルのピースのように、あれもこれもと謎が解ける。

「夏油」
「……ん、終わったかい」

このところ少し元気のない夏油を、気遣う余裕も今のあきらにはない。ただズカズカと歩み寄り、胸ぐらを掴んで引き寄せた。ぐっと近づいた驚いた顔、その唇めがけて自分のそれを押し付ける。
やり方なんかわからないけれど、開いていたところから舌を潜り込ませて、ただ夏油の口内を舐めた。

「…………あきら」

我に返った夏油に優しく肩を押されて唇が離れた。戸惑うように呼ばれた名前に腹が立って、キッと夏油を睨みつける。

「夏油の馬鹿」
「…………」

今度はそっちからして、と怒っているあきらを見て、夏油は困ったように眉尻を下げた。
のろのろと頰に添えられた手は少し震えていて、顔はなかなか近づかない。あきらはまっすぐな眼差しで、視線を落とす夏油を見る。

「あのさ夏油」
「……ああ」
「こんなのどうでもいいんだよ。頭いいのにさ、そんなこともわかんないの?」
「…………」

長い沈黙の後、わからないんだ、と答えた夏油の声は泣きそうで、あきらは耐えきれなくて、また自分から唇を寄せる。
二度目のキスはさっきと同じく、とてもひどい味がした。