※80話以降をあったら嫌な方向に若干捏造しています
「あっ、みんな、おかえり〜」
京都校の寮に帰ってきた面々を、留守番組だったあきらはくつろいだ様子で出迎えた。顔に緊張感がない。この感じだと、東京校であった特級の襲撃については知らされていないのだろう。
少し遅れて入ってきた加茂の怪我にうわっと驚きつつ、すぐ気を取り直して、あきらは「どうだった?」と好奇心に満ちた目で仲間たちを見回した。
「勝った?」
「…………」
「あ、負けたんだ。アハハ」
「アハハじゃない」
「負けちゃったものは仕方ないじゃん、来年頑張りましょうよ〜って三年はもう次ないのか。アハハ」
「……」
アハハじゃない、ともう一度加茂が言った。
口調が真面目なので滑稽に響く。まるでコントか何かのようだ。ただし誰も笑う者はない。
空気を読まない東堂は時計を見るなり、高田ちゃんが!と一声あげて部屋の方へ走っていってしまい、加茂はその様子にため息をついて同じく自室へと足を向けた。
「うーん……」
素っ気ない先輩たちの背中から同級生に目を移し、あきらは続けて、真依に向かって真希元気だった?と話題を振った。
どうしてそうも地雷のようなところにばかり突っ込んでいくのか疑問でならない。ひくりと頬をひきつらせた真依が、まあまあと苦笑する三輪と西宮に宥められている様子をメカ丸はスペアの体を通して眺める。
「ああそうだわ。あきら」
「ん?」
「東京土産、持ってきたわよ」
まだ苛ついているらしい真依が、不自然なほどの完璧な笑みを浮かべて強引に話を逸らした。
土産という言葉に反応したあきらがわあいと暢気な声を上げる。期待に満ちた様子で、手のひらを真依に差し出した。
「はい、どうぞ」
手の上にころんと乗せられたそれを見つめて、あきらの笑顔が固まる。
「わぁー……」
見覚えのある人形だ。どこぞの部族のお守りだと言って、数日前に困った大人に押しつけられた海外土産が、あきらの手の上で倒れ伏している。
あきらの引いたような声を聞いた真依が、片方の眉をつり上げた。何よ、と刺々しく聞く。
「ううん。ありがと……」
「喜んでもらえて何よりよ。じゃ、私はシャワー浴びてくるから」
「はぁーい……」
すっかりテンションの下がったあきらに、西宮がちゃんと他のもあるからね!とフォローの言葉をかけつつ、真依の後を追いかけた。
なんとなく解散の雰囲気だ。
三輪も部屋に荷物を置きに行くと去ってしまった。
というわけで、シャワーを浴びる必要もなく、特に荷物も持っていないメカ丸とあきらが、この場には残される。
「ねえメカ丸」
「……何ダ」
あきらが貰ったばかりの人形をまじまじと見ながら言った。
「メカ丸ってこういうのも動かせるの?」
「…………」
少しの沈黙の後、まあナ、と答えると、あきらはテンションの高さを瞬時に取り戻して、すごい!と楽しそうに叫んだ。
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そんなことがあった。
そうだったそうだったと思い出しながら、あきらは机の上でもぞもぞ動いている不気味な人形を見つめていた。
あの後あきらはメカ丸にねだってしばらく人形を動かして貰ったが、動かす用のものではない人形は『メカ丸』と異なりやりづらいらしい。もぞもぞと、ちょうど今のように動かすのが関の山だと言われてしまった。
「どうしたのメカ丸〜」
メカ丸の呪力を纏い、もぞもぞ動く真依からの土産を拾い上げる。まだもぞりと動くそれは不気味だが、ちょっとかわいくもあった。
手の上に乗せてつんつんと突いてみたが、口もないそれは、当然何の返事も寄越さない。
ただ。
「お?」
そろり、と人形が短い手を頑張って動かした。あきらの近づけた人差し指を、すぐにでも振り払えそうな力でぎゅっと押さえる。
握っているつもりだろうか、と考えて、そしてそれをしているのがいつもクールぶっている同級生だと言うことを思い出し、あきらはアハハと笑った。
「なあに?」
「…………」
「寂しいの?」
人形は答えない。当たり前だ。
というかそもそもこちらの声は聞こえているのか。
人差し指を取られたまま、あきらはしばらくじっとしていた。
そのうち人形に籠もる呪力が薄れていくのを感じて、少し寂しくなる。やがて指を押さえる力もなくなって、人形はあきらの手の上で、とうとうぴくりとも動かなくなった。
「メカ丸?」
もういいの、という問いかけに返事はやっぱりない。
あのメカ丸が、珍しいこともあるものだ。
あきらはちょっと首を傾げて考えると、後で話でもしにいくかあと、大きな独り言を言った。