自習というのはつまり、勝手に遊べということだ。少なくとも呪術高専東京校の二年はそう解釈している。
担任は出張、呪術実習はない、とくればまあ年頃の子供らしく各々会話をしたり漫画を読んだりと楽しみたいことはたくさんある。
四人しか生徒のいない小さな教室にはさっきから硝子が最近ハマっているらしいうるさい音楽が流れているし、女子二人は雑誌だの漫画だのを開いている。夏油はといえば五条が昨日見たテレビの話をうんうんと頷きながら聞いてやっていた。
「傑聞いてる?」
「聞いてるさ」
なんとかという芸人がツボに入ったらしい。さっきから熱心に話してくれているけれど、人を通じて話を聞くとお笑いというやつは途端につまらなくなるな、というのが夏油の素直な感想だ。
珍しく平和な午後だった。
硝子が口を開くまでは。
「あきらはさ」
硝子の声はよく通る。女子平均より少し低い声に、年にしては落ち着いた口調があいまって目立つのだ。
五条の話を聞きながらであっても問題なく、夏油は聞き取ることができたし、話しかけられたあきらは言わずもがなで、漫画から目を離さずに何ーと間延びした返事をした。
「どうしたの」
「同期の中だったら誰と付き合う?」
「は?」
唐突な質問に部屋の空気がぴしりと固まる。こちらからあきらの表情は見えないが、多分口をぽかんと開けているだろう。
硝子が読んでいた漫画をあきらに向けた。どうもそこにきっかけじみたものがあるらしい。
「……そういうのって普通の学校で聞くもんじゃないの」
困惑気味の声が当然の疑問を投げかけた。夏油も同じことを思う。二人しか選択肢がないような学校でする質問ではないし、ましてやその二人ともが同席している教室内で聞くものでもない。
彼女らしいといえば彼女らしい、と笑おうとして、夏油は目の前の親友の様子に気づいた。
「……どうした、悟」
「…………別に。なんでもねー」
少しの間黙りこくっていた親友が、言葉通り芸人の話を再開する。その様子は先ほどまでに比べて熱がない。気が散っているのが丸わかりで、夏油はとうとう吹き出した。
「…………何だよ」
「いや、何でもないよ」
さっきの五条と同じ言葉を返してやる。
そのやり取りの間にも女子二人の会話は進んでいた。
「それ答えなきゃダメ?」
「だめー」
「先輩とか後輩とかは?人数少ないし」
「そういう逃げもダメ。同期」
「えー」
あきらの困った声が、流れる音楽のシャウトに掻き消されている。
あまりにあきらが渋るので、硝子が助け舟を出した。別にほんとに付き合うわけじゃないじゃん、と言われ、それもそうかとあきらが頷く。
「じゃあ」
「うん」
「…………夏油?」
挙げられたのは自分の名前だ。
まあ普段を考えると、無難な選択だろうと思う。思うが。
怖いのは目の前の親友の反応である。
「………………」
五条はじっとりと、恨めしげな目で夏油を見ていた。
「……フッ、さ、悟」
表情筋豊かな、恋人として選ばれなかった親友はすっかり拗ねて、特に悪いわけでもない夏油を睨んでいる。
さすがに可哀想ではあるので、夏油はなんとか笑いを抑えた。コホンと一つ咳払いをして、改めて口を開く。
「そんな顔するなら、少しは優しくしてやればいいのに」
どう考えてももっともな夏油の言葉に、反論が思いつかなかったらしい。たっぷり間を空けてからやっと一言、ふてくされた声が「うるさい」と答えた。