こんな時だって、五条悟はいつも通りだ。
「それで、あきらはなにしに来たの?」
帳を難なく抜けた後、目隠しの男はぐりんと首を捻って、後に続いたあきらを見た。
「連絡係。電波ないから」
眉を顰めて短く答えるあきらは警戒を緩めない。五条ほどの余裕は、当たり前ながらなかった。
人、人、人。
ハロウィンの渋谷だ。夜の上に帳が重なったせいで、空を見上げても視界には月も見えない。
辺りには閉じ込められたことに混乱して見えない壁を叩く非術師がそこかしこに集まっているが、突然侵入してきた五条にもあきらにも気付いてさえいなかった。五条悟、五条悟を連れてこいと、近くにいる本人を無視して必死に叫んでいる。
異様。まさにその一言に尽きた。
「連絡係ねえ」
場違いに微笑んで五条が呟く。
ただでさえ長い足で、大股で歩く五条に、いつもそばを歩くときのような気遣いはない。
少し気を抜けば置いていかれそうになる。あきらは逸れないよう、時に小走りで五条の、見慣れた同期の背中を追った。
気配を追って辿り着いたもう一つの帳の中には、これでもかと人間が犇いていた。外の比ではない。
あきらの感覚はこの更に下にいる複数の不穏な気配を察知して、元々刻んでいた眉間の皺は更に深くなる。
「皺、取れなくなっちゃうよ」
アハハと愉快そうに笑いながら言う五条に言い返す気にもならなかった。
ジトっとした視線を受けた五条が、笑いを引っ込める。それからごくごくいつも通りの口調で続けた。
「あきらはここまで」
「…………」
「外戻って、伊地知あたりに無事着いたから安心してって伝えてきて」
着く頃には終わってるだろうけどとケラケラ笑う。あきらは苛立つ。
返事はせず、笑顔を浮かべる五条を睨みつけたまま、ポケットに手を突っ込んだ。取り出した黒い玉のようなものを壁に叩きつけるとそれは数羽の烏に形を変えて、命令も待たずにどこかへと飛び去っていく。
連絡は式神に任せるという、わかりやすい意思表示だ。
「……あのさあ」
初めて、五条が不満そうな顔をした。
薄い唇をへの字にひん曲げてあきらを見る。言葉の先を遮るように口を開いた。
「あんたは置いていきたいんだろうけど」
「…………」
「そうは行くかっての」
人、人、人——ここには人ばかりだ。
傷付けば当たり前に叫び死ぬ人間だらけ。
計算尽くでないわけがない。避けられないのならなおのこと、あきらはこの男を一人にしたくはなかった。
「……やめといたほうがいいと思うけど」
「余計なお世話」
ピシャリと撥ねつける頑固なあきらの様子に溜息を吐き、五条はまた、あきらを振り切るような大股で歩み出した。