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連れ出したい五条

※学生時代

 

椅子の足を軽く蹴られた。
軽くと言っても不快は不快だ。あきらはすぐそばに立ったままのクラスメイトを睨みつける。五条悟という名の困った同級生は、たった今ちょっかいをかけたあきらの方を見もせずに、拗ねたような顔でそっぽを向いていた。

「普通に声かけてよ」
「顔貸せ」
「はぁ?」
「外行くぞ」

謝りもせずにこれだ。
五条が自分勝手なのは知っているし慣れているが、だからといってそういうものと全てを流せるわけでもない。なので今回もちゃんと腹を立てて、あきらは相手を威圧した。五条はだんまりだ。

「やだ」

ふんとこちらも顔を背けると、片方の眉を吊り上げた五条がやっとあきらの方を見た。少し苛ついた様子を見せつつ、「話があんだよ」と続ける。あきらは「ここでいいでしょ」と返した。

「私たちは構わないよ、ここでしてくれても」
「うんうん」

そこへちょうど居合わせていた夏油と家入が茶々を入れた。夏油はニコニコといつも通り胡散臭く笑っているし、家入の方はポーカーフェイスで、面白がっているのかどうかさえわからない。
あきらは少しの違和感を覚えながら、とりあえず「いいってさ」と五条を見た。

「いや、……おい!傑!」
「恥ずかしいなら後ろを向いておくけど。ねえ硝子」
「耳も塞いどいてあげる」
「そういう問題じゃ……あきら!」

なんで外じゃ駄目なんだよ、と荒い口調で聞かれた。あきらは少し考えて、窓の外を見た。

「……今日寒いじゃん」
「…………はぁあ?」

それだけ?と言いたげな目で見られた。もう一度外を見る。窓の外では木が風に煽られて枯れた葉を散らしている。今日朝起きたときだって、こうして教室に移動してくるときだって寒かったのだ。どう考えたって立派な理由だろう。

「寒い」
「……あきら」

五条はとても嫌そうな顔をしていた。それでも先ほどよりは幾分か落ち着いた声で、あきらを説得にかかる。

「上着貸してやる」
「ふーん」
「………………外の自販機で温かいやつ、買ってやるから」
「へえ。時間かかる?」

そんなに、と言うので、あきらはやっと腰を上げた。くそ、と何故か悪態を吐いた五条が学ランを脱いで、あきらに寄越す。それを大人しく羽織った。
男子平均よりずっと大柄な五条の制服は大きくて、それから暖かい。

「五条のにおいだ」
「…………」

背中を押され、教室の外に出た。中の二人がそれぞれ「健闘を祈る」「がんばれ」とはやし立てたのを遮断するような勢いで、五条は「うるさい!」の言葉と共に、乱暴に教室の扉を閉めた。