Skip to content

諏訪と年越し

ふと時計を見ると、あと五分で年明けだった。

あきらは少し考えて、隣でテレビを見ながら爆笑している諏訪、その口にくわえられているタバコに手を伸ばす。指で挟んでぴっと取ってしまうと、ん、と諏訪が視線を寄越した。
不満そうではない。なんだよと目が言っている。
あきらはちょっともぞもぞと迷うような仕草を見せてから、意を決したように体を浮かせて、諏訪に顔を近づけた。目を閉じて、少しかさついている唇に自分のそれを重ねる。

「……おお?」

目を丸くした諏訪に、「今年最後の、ってことで」と早口で言った。横顔に視線を感じたが、それを無視して、テレビをまっすぐに見つめる。
諏訪は時計に目をやって、あきらの意図を飲み込んだ。

「へえ」

さっきまでの爆笑とはまた違った種類のにやにや笑いが目元口元に滲んでいる。あきらの指から取り返したタバコを、諏訪はテーブルの上の灰皿にぐりぐりと押しつけた。

しばらくまたテレビを見て笑っていた。番組の中では芸人たちが悲惨な目に遭っていて、あの人たちも大変だななんて感想を言い合いながら時間は過ぎた。さっきのことなんてなかったみたいだ。
もっともあきらとしては、やってみたはいいがなかなか恥ずかしかったのでその方が都合がいい。

諏訪がいきなり、あきらの膝をトントンと軽く叩いた。

「ん?」

テレビを見ていた笑顔のまま横を向くと、にやにや笑いの諏訪に顎を捕まれる。そのまま顔が迫った。目を閉じる暇もなく、唇に、さっき感じたかさつきが触れる。

「これ、今年最初な」

諏訪が言った。瞬きをして時計を確認すると、なるほど0時を過ぎている。

「……あけましておめでとう」
「おう。今年もよろしく」

言いながら諏訪はポケットからタバコを取り出して、ライターで火を点けた。なぜだかとても上機嫌で、鼻歌がかすかに聞こえる。

これ終わったら初詣に行こうよ、とあきらは思い付きを言ってみた。さみーからやだよと返す諏訪に抗議するように、少し高い位置にある肩に頭をぐりぐり押しつける。わかったわかったとすぐに折れた。
いかにも仕方なくといった声色だったが、たぶんそういうポーズだろう。諏訪にもたれたまま、あきらがくすくす笑う。

「……来年も、」
「なんか言ったか?」

言いかけた言葉は小さすぎて、諏訪には聞こえなかったらしい。あきらは首を振った。

「ううん。なんでもない」

番組が終わるまで、あと二十分くらいだろうか。そしたら神社に行って、おみくじを引いて、そして神前でお願い事をしよう。
ささやかで、しかしとても贅沢なことを、諏訪の隣で願えたら、きっと叶うような気がした。