遠征部隊が帰ってきたらしい。廊下の向こうに菊地原の姿を見つけて、労ってやろうと近づいた。耳のいい菊地原は随分手前であきらに気づき、おかえり!とあきらが陽気に手を挙げたところで、
「あきらさん太りましたね」
とそんなどえらい発言をかましてきたのである。
許すわけにはいかぬ。
トリオン体でもないのにビシッと体に亀裂が入ったかと思う。それくらいの衝撃だった。ぎしぎしとショックで軋む体をなんとか動かして、あきらは菊地原によろよろと近寄る。
「う、うふふ、菊地原。知ってるんだぞーそういうこと言うのかまってほしいからだって……」
し、しおりに聞いたんだからー、と頼りない語尾で言うと、「一キロは増えてますよ」と無慈悲な言葉が返ってきた。悲しいかな、菊地原のサイドエフェクトは強化聴力。聞き分けが得意ときた。足音から大体の体重も知れると以前言われたことがある。というかわざわざ言われなくとも、己の体重の変化くらい、毎日風呂上がりに体重計に乗っているあきらが一番知っているのだ。
「……この口かっ!!!」
「いひゃいです。ぼうりょふはんはーい」
うにっと憎しみを込めて頬を抓るとよく伸びた。遠征疲れでやつれているということもなさそうだ。腹が立つほど、菊地原は元気であった。
「高遠」
「うひゃっ」
ぐりぐりと念入りに伸ばしていると後ろから声をかけられた。振り向く前に頬をつねられて体が跳ねる。
「……後輩をいじめるんじゃない」
聞き慣れた落ち着きのある声でそう言ったのは風間である。その少し後ろでは慌てた様子の歌川が控えていた。そうらそうらー、と調子がいいわりにやる気のない菊地原の声が聞こえる。
「でもでもだって菊地原がっ」
「またなにか言ったんですか」
「一キロ増えたって!!」
うううと唸るあきらをどうどうと宥めながら、歌川が「あきらさんは痩せすぎですよ。今くらいがちょうどいいですって」と当然のような口調で言う。
「う、歌川ぁ……」
感動の眼差しであきらが歌川を見る。そこへ頬への攻撃が緩んだ菊地原が、
「まああきらさんぼくより重いけどね」
「うおおお菊地原ああ」
うにーっとさっきまでより強く両頬を引っ張ったあきらの頬を、また風間がつねる。「……確かに前よりのびるな」と言ったものだから、あきらはとうとうその場に崩れ落ちた。