一人で鼻歌なんて歌いながら歩いていた帰り道、首の後ろに突然氷でも入り込んだかのような冷たさを感じて、あきらは震え上がった。
「うわあ!」
首を縮めて色気のない悲鳴を上げる。さわさわと背中側へ下がっていこうとするそれから逃れようと、その場から飛び退き、振り向いて身構える。威嚇の眼差しを向けたあきらを見て、犯人であるところの出水がぱちくりと瞬きをし、それからゆっくりと時間をかけて、にやあっと嫌な感じの笑みを浮かべた。
「お前、驚きすぎ」
「うるさいよ!驚くに決まってるでしょ!」
ご立腹のあきらがぎゃんぎゃん喚くが、悪びれもせずに肩を竦めてみせた。ような気がした。
首元にもっさりと巻き付けたマフラーのせいで、よくわからないのだ。かわいくて寒がりの女子がよくやっているような巻き方を、出水はしていた。それが似合っているのがまた、あきらとしてはおもしろくない。
「ちょっと驚かせただけだろ?」
「女子の肌いきなり触っていいと思ってんのか弾バカ!」
「…………別にいつも触ってんじゃん」
「なっ……!」
ジト目で言った出水に、あきらはしばし絶句して辺りをきょろきょろと見回した。警戒区域を歩いて帰ろうなんて輩はあまりいないし、周りには隊員の気配もない。誰に聞かれる心配もないのだが、それでもあきらは羞恥で少し顔を赤く染め、声を潜めて「TPOを考えてよ」と怒った。出水がまたにやついている。
「考えてるだろ。誰もいないし」
「…………いきなり触るのなし」
「なんで」
「出水の手冷たすぎ」
「冷え症なんだよ」
「知ってる」
マフラーばかりでなく、コートもしっかりと着込んでいる出水は完全防備である。今からこんなに着ていて真冬になったらどうするんだろう、とあきらは思った。
突っ立っているのをやめて、出水が歩き出した。あきらの横を通り過ぎるその時に、冷たい手がぎゅっとあきらの手をつかまえたので、あきらがよろめく。引っ張られるようにして歩いた。
「手袋もつけた方がいいんじゃない?」
絡んだ手指の、自分とは全く違うその体温に、改めて心配になってしまって、あきらが言った。「んー」横を歩く整った横顔が、前を見たまま白い息を吐き出した。
「……これで充分」
言うなりあきらの手ごと自分のコートのポケットに引き込んでしまう。指にちょっとだけ力を込めて、ぬくくなってきたと笑う出水は、なんだか満足そうだった。