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ご飯を持ってきた

「虎杖」
「あっ、あきらさん、おはよー!」

少年は今日も元気に映画を見ている。あきらはそんな彼にご飯を届ける。
最初は教師役として紹介を受けたので、高遠先生などと呼ばれていたのだが、それはどうにか辞めてもらった。些細なことだが、これが定着して学校運営にまで後々関わることになったら、目も当てられない。
なんといってもそれを狙われている節が人材不足の呪術高専にはあり、実際あきらは学長以下からそんな圧力をじわじわ受けている。

「調子はどう」

あきらは呪骸を代わりに抱え、弁当の中身をかきこんで幸せそうな顔をしている虎杖に、おもむろに尋ねた。
もぐもぐと咀嚼しつつ、「いい感じ」と端的に虎杖が答える。
なるほど、この間来たときは顔や腕など至る所にあった青痣や手当の跡が、今はほとんどない。
抱える呪骸に流さなければならない呪力も、以前よりかなり多くなっているようだし、問題なく対応できているなら本当に『いい感じ』なのだろう。
五条の言っていた通り、本当に感覚型、天才型なのだ。
最初は呪力の自覚すら覚束なかったのに、いつの間にかこんなに大きく成長している。

「……」

腹立たしいことに。

「……ん、もしかしてあきらさん、機嫌悪い?」

空気というものに敏感な少年だと思う。
俺なんかしたっけ、と自らを省みつつ慌てている虎杖に別にと返した。

「感覚型が昔から嫌いなだけ」
「ええ……」
「周りに多かったからね」

開きかけた記憶の蓋を無理矢理閉めて、よいしょっと立ち上がる。
呪骸を宙に放り投げたりして遊びながら、「終わったら道場ね」と言ってやると、虎杖は声を上げて喜んだ。