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付き合ってんの?

映画と組み手漬けの日々も一応の終了を見、虎杖が次に課せられたのは実戦である。呪術高専の実習でやっているような任務に、五条もしくは五条が信頼を置く人物と共に出向く。
当然これまでなにかと虎杖の世話を焼いていたあきらも、信頼を置かれているわけで、付き添い要員に数えられていた。
普段のあきらであれば五条の頼みという時点で断固拒否の姿勢を取るのだが、そこはなんだかんだ、虎杖のことを気に入っているのだろう。
今日は不満を漏らすことなく、なんなら自販機で買ったジュースまで虎杖に与えて、大人しく後部座席に乗っている。

確かに、知れば知るほど嫌うのが難しくなる少年である、と、補助監督として現在二人を乗せた車を運転中の伊地知も思っている。

いや、思っていた。

「あきらさんと五条先生ってさあ、付き合ってんの」

数秒、体感的にはもっと長く、車内に沈黙が落ちた。
隣に座るあきらからも、運転中の伊地知からも反応がないことを不思議に思って、虎杖があれ?と首を傾げる。

「えっと、あきらさんと五条先生って」
「二度も言うな!」

言い直そうとした虎杖を遮って、あきらが声を張り上げた。
ちらりとミラーを見てみると、不機嫌さを隠そうともしない先輩の表情が目に入り、伊地知は内心でヒエエと声を上げた。あきらとは長い付き合いなのだ。怒らせるとどんなことになるかは、学生の時から体にたたき込まれている。
だが恐ろしいことに、虎杖は怯まず、「なんだ違うの」とつまらなさそうに口を尖らせた。

「あり得ない」

あきらが低い声でもって、呟いた。

「えー、でも、仲良いから」
「仲良くない!」

やめましょう虎杖くん、それは触れてはいけない話です、と伊地知は言いたかったが、そうすると今は後ろで完結している話がこちらに飛んできかねない。ならば虎杖がいい感じに丸く収めてくれることを祈るしかなかった。

実のところ、学生の時分からよく言われた話なのだ、あきらと五条の仲は。
本人たちから直々に否定され、その上厳しく扱きなど受けてから見直すと確かに二人の間にあるのは腐れ縁と長い時間を同期として過ごした信頼とであるとわからないでもないのだが、なにぶん距離が近いし、いざこざは痴話喧嘩にも見える。
五条の方がどう思っているのかは正直わからないが、あきらにしては「あり得ない」「迷惑な」「不愉快な」話なのだそうで。
毎度こうして、怒る。

「五条はただの腐れ縁のボケカスだし、変な誤解してると呪うから肝に銘じておいて」
「ええ~……はーい」

それでも今回は十以上も年の離れた虎杖が相手であるから、普段のように呪術をしかけるとかそういった過激な手段は取らなかった。
一応恭順の姿勢をとった虎杖に、息を吐き出しながら付け加える。

「あんなアホ目隠しとくっつくくらいなら七海か伊地知とでも付き合うっつーの」
「え゛っ」

まさに青天の霹靂というやつである。
急に自分の名前が出てきて、咄嗟にまずい声が出てしまった。
とても喜びを表したようには聞こえない。勘弁してくれ、という本心を、あきらももちろん感じ取ったようだった。

「……伊地知」
「はっ、はい!」
「現場着いたら、ビンタ」

いつぞや五条にも言われた罰を、あきらが予告した。
だから誤解されるんですよ、とは言えず、伊地知ははいと力ない返事をしながら先を急ぐ。
ミラーを見ると、そもそもの原因である虎杖が状況をつかめていなさそうな顔で首を傾げていて、今ばかりは憎らしかった。