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初対面

「名は」

機嫌のよろしくなさそうな少女の声を聞き、あきらは溜息を吐きながら「高遠あきら」と名乗った。正面のソファーに深く座り、足と腕を組んで精一杯の威厳を主張している少女は「態度が悪い!」とあきらを咎めて、後ろに控える世話係を睨みつけた。

「こんな者に妾の護衛が務まるのか」
「お嬢様……」

先ほど黒井と名乗った彼女は困った表情を浮かべ、あきらをちらりと見遣った。大人しく態度を改めてほしいという主張だろうか。何にしろあきらの知ったことではない。

「言っとくけど」
「……なんじゃ」
「私が気に入らないなら、そもそもあんたの希望は却下だよ」
「な!?」
「何故なら他に適任がいないから」

なんじゃとぉと大げさに驚く少女をじっとりとした目で見つつ、本日二度目の溜息を吐く。
あきらだって来たくて来たわけではないのだ。

少女――改め天内理子は、星漿体と呼ばれる存在である。
運悪くこの時代に生まれついた彼女は、あと数年後に迫る明確な終わりのために生かされていた。
そしてそれを哀れんでいるのか、それとも他に意味があるのかはわからないが、彼女には我が儘が許されている。それも際限なく、だ。

『天内理子の要望には全て応えよ』

それが現在の呪術界の基盤となるお方の命令であり、あきらがここに派遣されてきた理由だった。
『学校に通いたい』と、我が儘というより、現代日本では権利とも言っていい彼女の言葉で、あきらのこれからの数年が縛られることはあっという間に決定したわけだ。

あきらがソファーの上で足を組んだ。腕を組み、先ほどの少女と全く同じ姿勢を取ると、冷めた目で見据える。
こちらは当然ながら年相応に様になっていて、天内はつい足を組むのを止めた。

「あと、老婆心ながら警告しておいてあげる」
「……なんじゃ」

膝に握りしめた拳を置き、口を尖らせながら尋ねる。「その中二病じみた口調、」とあきらは続けた。

「学校に行くなら止めないと、周りにドン引きされるから、早めに直した方がいい」
「…………黒井」
「……はい、お嬢様」
「この無礼者をつまみ出せ!高専には他の術師を寄越せと伝えよ!!」
「だから私以外適任いないっつってるでしょ」

ハン、とあきらが鼻で笑った。天内がますますいきり立ってうぐぁああと唸り声を上げ、それこそ年相応に地団駄を踏む。黒井はあわあわと困り顔をして、水と油のような調子で向かい合う二人を見比べた。