久しぶりの休日らしい休日だったので、部屋でボーッと過ごすのは勿体無いし、服でも買いに行くかと思った。
格好やら顔やらをそこそこちゃんと整えて、共用スペースのあたりを通り掛かる。そこではこちらも珍しく休日らしい反抗期の弟と、その親友がだらっと座って、つまらなさそうにテレビを眺めていた。
「あきらさん、お出掛けですか?」
「うん、たまにはね」
愛想よく話しかけてくる夏油に答え、そのまま通り過ぎようとしたあきらに、「待てよ」と今度は悟から声がかかった。
何、と眉を顰めて足を止めると、いつも通りむすっとした顔の弟が「俺も行く」と言う。
「はあ?なんで?」
「別に。俺が行ったら悪いわけ」
「いや、そういうわけじゃないけど」
一体何の気紛れだろうか。
顔を見ると文句を言うか避けるかの弟と仲良く並んで街を歩く想像があきらにはできない。というか休みの日にまで気を遣いたくない。
あきらが困惑して黙っていると、悟は上着取りに行ってくる、と言い残してさっさと部屋へ向かっていった。
「……何アレ?」
「心配になったんじゃないですか?」
「何が」
「色々と」
色々?と首を傾げている間に、宣言通りジャケットをひっつかんだ悟が戻ってきた。ただの買い物なんだけど、と言うとあっそと興味なさげに返された。
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一日中ブラブラと買い物やら散歩やらをして、高専の寮に帰り着いたのは日も落ちた頃だった。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ずいぶん沢山買ったんですね」
「ホントにな!」
苦笑した夏油にいーっと歯を剥いて悟が喚く。共用スペースのソファの上に乱暴に荷物を放って長い、疲れた、買いすぎとぶちぶち文句を垂れた。自分で勝手に付いてきたのだから文句を言われる筋合いはなく、あきらはあっそうと適当に返す。
弟を連れての買い物はそう悪くもなかった。
些細なことで言い争いになることもありはしたが、出先なので酷くはならない。ケーキを奢ることにはなったけれど、案外大人しく悟は荷物持ちをこなしてくれたから、おかげであきらは存分に買い物を楽しむことができた。
本人は特に楽しそうでもなかったが、便利ではある。
「もう二度と行かねー」
むくれてソファーに沈み込む弟に苦笑して、部屋に運ぶために紙袋を持つ。そういえば、と夏油があきらに問いかけた。
「どうかした?」
「今日は声、掛けられなかったですか」
「声?」
少し首を傾げてから、ああ、と思い至る。
一人で遊びに行くとその辺の暇そうな男だのなんだのに声を掛けられたり、たまに後をつけられたりするのだと、前にちょっと愚痴ったことを思い出した。
「えーと……」
そういえば今日は何もなかった。
隣にずっと悟がいたせいだろうか。
「今日はなんか、平和だった」
「それは良かった」
夏油がうんうんと頷く。ねえ悟、と面白がっているような口調の親友に声を掛けられて、生意気な弟はこちらを見ないまま、フン、と大きく鼻を鳴らした。