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そっちは見える/真希

そっちは見える

変なものをたまに見る。

あきらの目は呪いを映す目だから、意味のない言葉を呟くいびつな生き物を見ること自体は自然なことなのだが、それとは明らかに違うのだ。ずっと人の形に近い。

「ねえ、真希」
「あ?」
「あれ、何だと思う」

実習現場に向かう道すがら、信号は止まれと命令していて、道路をたくさんの車が横切っていく。
向かいに突っ立っている影を、あきらは視線だけで指し示した。
おそらく女性だろう。虚ろな目は片方しかなく、顔の片側が闇で覆ったようにぼやけている。
眼鏡についたらしい汚れを拭っていた真希が手を止めて、視線の先を追いかけた。きゅっと眉根を寄せる。

「……見えないふりしとけ」

うん、と大人しくあきらは頷いた。信号は程なくして、青に変わった。