鬼が何を食べるのかは嫌と言うほど知っているけれど、人を食べない鬼が何を食べるのかなどはわからなかった。
餓えさせるのはかわいそうだなと、人を食べないならなおさらのことそう思ったので、あきらはちょっと考えて、山で捕まえてきた兎を目の前に差し出してみた。
耳を掴まれた兎はじたばたと、無駄な足掻きを続けている。
「これだったら食べられるのではないの?」
「…………?」
竹を噛んだ鬼の娘は、特に欲はわかないらしく、まあるい目でこちらを見つめて、こてん、と首を傾げて見せた。
仕草が幼い。
「我慢は別にしなくていいのよ」
続けて言ってやると、こてん、と今度は逆に首を傾げる。
果たしてこちらの言葉は通じているのだろうか。
どうしたものかと考えて、あきらも同じように傾げて見た。
「禰豆子!」
「!」
そこへ、鶴の一声ならぬ、兄の一声。
目が覚めたように立ち上がり、妹はとことこと兄に駆け寄っていく。
せっかく捕まえてきた兎などには見向きもしない。
炭治郎があきらに気づいて、大股で近づくと勢いよく頭を下げた。とても礼儀正しい少年なのだ。
「あきらさん、こんにちは!お久しぶりです」
「うん、こんにちは」
そのままはい、と兎を差し出してやったら、頭にいっぱい疑問符を浮かべて、炭治郎は両手を差し出した。
暢気に腕の中に抱かれた兎を見て、わあっと頬を紅潮させる。
「禰豆子、兎だよ」
自分の袖を掴む小さな妹に、ほら、と見せてやっている。妹は先ほどとは打って変わって、興味深そうに腕の中をのぞき込んでいた。
「…………」
――何も食べない鬼なんて。
いっそ人より、清らかではないか。
「……わはは」
なんだか笑えてきたあきらのことを、兄妹が揃って不思議そうに見つめていた。