※学生時代
※ツイッターで流れてきたネタ
「どこかの一万人と恋人。どっちかを選ばないといけないとしたら、どっち選ぶ」
「いきなり何?」
「ちなみに選ばなかった方は死ぬ」
「……」
変な仮定の話をされた。
少し黙って考えた後、恋人いないからわかんない、と逃げのつもりで答えると、五条はあきらモテなさそうだもんなとケラケラ声を立てて笑う。
あんたもいないでしょと睨みつければ俺はいないっていうか作らないんだよと、サングラスを外し、あきらに向けて決め顔を作った。なるほど綺麗な顔だが、高専で同じ時間を過ごしてきたあきらにとってはただの五条の顔だ。これ見よがしに溜め息を吐いてやる。
大体、そんな問答をしている場合ではないのだ。あきらも五条も調査任務の最中である。
出没条件がわからない呪霊を炙り出すための一歩として、まずは呪霊が活発に動く深夜に、前に被害者が出た廃墟で見張りをしているのだった。
壁を背にして、二人並んでの体育座り。むき出しのコンクリートのせいで、背中も尻も痛い。
「……いいから集中してよ」
眠気で不機嫌になり始めたあきらがふてくされて言う。
「してんじゃん。あきらよりしてるよ」
術式だって維持してるしと返されてしまえばあきらの方に言葉はなかった。眉間にぎゅっと皺を寄せて、口をへの字に曲げた。
「あきら」
五条がまた名前を呼ぶ。渋々何、と返した。
「恋人いないなら俺でもいいよ」
「は?」
「さっきのやつ」
話は終わっていないらしい。
結構しつこいところのある五条のことだから、あきらがきっちり答えないと延々と続くのだろう。
あきらは仕方なく質問の内容を思い返した。そして恋人のところを五条に置き換えて考える。
答えは簡単に出た。
「五条を選ぶ」
「なんで?」
「あんたが生きてれば、一万人よりもっと多くの人が助かるかもしれないから」
わかりきった話だった。
五条は強い。今だって充分強いが、この先もっと強くなるだろうという確信があきらにはある。何てったって御三家である五条家が数百年待ち望んだ六眼と無下限呪術の抱き合わせだ。あきらのような一般出の凡人とは違う。
もしあきら自身がその死ななければいけない一万人の中に入っていたとしても、あきらは五条を生かす方を選ぶだろう。
あきらの返答を聞いた五条は、フーンと適当に頷いて前に向き直った。なんだその反応は、と思ったあきらが、半目になってあんたはどうなのと尋ねた。
「俺?」
「一万人と恋人、どっち選ぶの」
「んー」
五条は少し目線を上にあげて、顎の下に手を当てた。しばらく考えるような仕草をした後、恋人いないからあきらで考えるけど、と迷惑な前置きをして先を続ける。
「まぁ多分あきらを選ぶよ」
「……」
「何その顔」
「……いや、ちょっと意外で」
当たり前に一万人の方を選んで、あきら弱いしねとかいつもの腹の立つ煽りをして暇つぶしをしたいんだろうと考えていたので、拍子抜けだった。なんで、と呟くように尋ねると、五条はこちらを見てニッと笑う。
「ただのワガママ」
あっそう、と答えながらも、あきらはなんだか動揺していた。