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虫の知らせ※/家入

※学生時代

 

あきらが部屋の掃除をしている。高専で同級生として過ごした一年と少しの間でも、かなり珍しい光景だったので、「明日は槍が降るかな」と硝子は思ったままを口にした。

「なんで?」

目を丸くしたあきらが、硝子を見た。言いながらも床を拭く手は止まらない。

「掃除なんてしてるところ初めて見た」
「人聞き悪いな〜」

たまにはしてたよ、とあきらが答える。ここまできっちりはやってなかったけどと続けた。
硝子は邪魔にならないように避難したあきらのベッドの上で、「何かあったの」と首をひねる。

「別に、やっとこうかなと思っただけ」
「へえ。じゃあやっぱり明日は槍が降るね」
「降らないし、降ったら困るし、実習だし」

あははと明るく笑って、あきらが立ち上がる。どうやら布団も干すつもりらしい。硝子が乗ったままの布団の端を掴んで、ふざけてそのままどりゃあとひっくり返そうとする。
少し対抗して遊んでから布団の上を退き、ついでに部屋からも出て行く硝子に、あきらは「私もたまにはちゃんとするんだよ」と胸を張った。

 

結局あの後、本当にきっちりとあきらは掃除をやり切ったらしい。

硝子が出て行くときにはまだ雑然としていた机の上も、本棚も綺麗に片付いて、掃除をいつも面倒がっていたあきらの部屋だとは、とても思えなかった。

「……全く」

槍は降らなかったけれど。
この部屋の主、高遠あきらは、呆気なく死んだ。
つい昨日のことだ。
お土産買ってくるねと笑い、特級二人を引き連れて出掛けたあきらは、ここには帰ってこなかった。
いくら強い人間がいたからと言って、それだけで完全に回避できるほど、死というものは甘くない。二人は言葉少なに、あきらの最期を硝子に語った。

——一瞬だった。多分、苦しまなかったと思う。

硝子はそうと答えて目を閉じた。
言われた通り本当に一瞬だったなら、自分がその場にいたとしても、結果は変わらなかっただろう。
 

あきらの部屋とは思えないほど綺麗になった室内に一人佇む。
本棚の隅に、少し前に二人で行った雑貨店で買った、うさぎの置物が目に入った。あきらがせがむのでお揃いで買ったものだ。片割れは硝子の部屋にある。

「これだけもらってくね」

優しく手に取りながら言うと、あきらのいない部屋に背を向けて、硝子は扉の方へと向かった。ドアを開け、くるりと室内を振り返る。

「……あきらのばーか」

勘の使いどころを間違っている間抜けな友人に向かって、最後に悪態をつく。
誰がバカだって、と聞き慣れたあの声が、返って来ればいいのにと思った。