「いってえ」
前を行く五条が立ち止まった。
そのまま手でごしごしと目を擦っている。何かゴミでも入ったらしい、と察したあきらが「五条先輩」と声を掛ける。
「擦っちゃ駄目ですよ。ひどくなります」
「うるせー」
痛いもんは痛いんだよと五条は続けた。あきらの忠告は無視で、力任せに目を擦る。
そんな当てずっぽうでは取れるものも取れないだろうとため息を吐き、あきらは五条に近づいた。
「私が見ます」
「…………えー」
「なんですかその不満そうな声は」
「だってあきら、不器用そうだし」
「…………」
一つ上の先輩の足を蹴る。術式で防がれた。
チッ、と舌打ちの音を聞いた五条が愉快そうに笑う。
「まあいいか。見てよ」
「……しゃがんでください」
案外素直にしゃがんだ五条が、あきらの顔を見上げる。妙に力を入れて閉じられている方の目を見ようと、瞼を力任せに持ち上げた。
「……丁寧にやれよ」
「やってます」
と言いながらも瞼を無理に引っ張る。五条が変な悲鳴を上げた。
五条の目をここまで至近距離で見たのは初めてだ。
この世の青という色を全部混ぜ込んで、ひとつの瞳に詰め込んだような色。
きれいだと素直に思ってしまったのが悔しかったので、なるべく無心に異物を探した。
「睫毛邪魔ですね」
「俺長いし多いから。あきらと違って」
「わかりました全部毟りますね〜大人しくしててください」
「オイ!」
第一歩とばかりに下睫毛を数本掴んだ。ついでに下瞼が引っ張られ、粘膜にくっついているそれを見つけた。
「あ」
「あった?」
「はい。やっぱり睫毛ですね。抜けてます」
「あ〜……」
白く長いそれに狙いを定め、眼球に触れてしまわないように気をつけつつ指先を近づける。五条はじいっとあきらの顔を見ながら大人しく待っていた。
息を止めてゆっくりと異物を取り除き、取れましたよとあきらが言うと、五条はよいしょと立ち上がる。
「にしても意外でした」
元通り見上げなくてはならなくなった先輩は、あきらの言葉に首を傾げた。
「何が?」
「あまりにも普通に痛がったりしていたので。五条先輩はそういうのないのかと」
「なんでだよ」
呆れたような顔をされた。反射的にむっとしたあきらを無視して、五条は続けた。
「俺だって人間だっつの」
「…………」
「何だよ」
「………………いえ」
そういえばそうでした、とあきらが答えると、五条は黙って前髪に隠れた額を小突いた。