※学生時代
何がいけなかったのかと言うと、一番最初はあきらが悪かった。
適当で先輩への尊敬なんて欠片も見せないあきらの態度を何も言わずに流そうと思えるほど、五条が大人ではなかったのがいけないし、たまたまこの間家入に「あきらって擽りに弱いんだよ」と聞いていたのも悪い。
共用スペースには折悪く五条の所業を止めてくれる相手もおらず、あきらは簡単に捕まえられた。
一度擽り始めてしまえば聞いた通り笑い転げて、五条はどんどん楽しくなってしまった。やめてくださいと笑いながら叫ぶあきらを無視し、「ココ、弱いんだって?」と得意げに言いながら首やらわき腹やらを擽り続け、結局、
「ごっ、五条先輩なんか、嫌い!」
実際には濁点の多い、嗚咽混じりの言葉だったのに、それは五条の耳にはよく通って聞こえた。
嫌い、嫌いと言葉が何度かリフレインし、「は、」とひきつったような声が出る。
五条が放心した隙にあきらは素早く近くにやってきた家入の背中に回り込み、腰にぎゅっと抱きついてまたわあわあ泣き始めた。子供みたいだ。
「あーあ。五条があきら泣かせた」
「……」
家入が呆れたような目を向けて、腰の方に回した手であきらの頭を撫でている。そいつにも原因の一端はあるけどいいのかよと思ったが、さすがに口にはしない。
「や、やめてって言ったのに、ぜんぜん、やめてくれなくて」
「うんうん」
「逃げようとおもって、でもおさえられてて、にっ逃げられなくて!」
あきらは家入の背中で涙を拭きながら、必死に五条の罪状を訴えている。
「襲ってたの?」と内容に見合わない暢気な声で聞かれたものだから、五条は反射的に「違う!」と声を上げた。あきらがちがわないしっと強気に抗議する。
「へえ」
「ずっと、くすぐられて、私やめてって、ごめんなさいって言ったのに〜!」
「なんだ擽りかぁ」
「だからそう言ってんだろ!」
ふうとため息を吐き、引き続きあきらの頭を撫でる。家入は五条をいつもより少し冷たいような目で見た。
「強姦だったらちょんぎるところだった」
「は」
「え?」
一瞬意味がわからずに、五条とあきらは二人揃って家入の言葉を噛み砕く。
強姦だったら、ちょんぎるところだった。
強姦って?ちょんぎるって、何をだ。
五条はぴしりと固まって、目の前の同級生を見つめた。
「まあ押さえ込んでる時点で似たようなもんか」
やっとく?と背中に向かって問いかける家入に、びっくりして泣き止んだらしいあきらが、「い、いいです」と答えてくれていた。