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五条の墓参り

※夢主死んでます
 

面影の欠片もないただの石の前に、五条は時々やってくる。

前に来たのは一年ほど前だったか。しばらく来ていなかったにしては、墓石周りの雑草が少ないしこざっぱりしているから、きっと同級か後輩の誰かが時々訪れているのだろう。

この墓に眠るのは高専時代の教師だった。

大人のくせにいい加減で、子供は青春してろが口癖で、少し抜けていて、でも強かった。年が近かったから生徒に舐められてはいたけれど、それ以上に慕われていた人だった、と思う。
五条にとっては、高専に入学して人並みの生活を得る前からの知り合いでもある。追いつきたいと必死になっていたことが、今ではもう懐かしい。

「やあ、あきら」

十も上だった彼女のことを、今も昔も、五条は名前で呼び捨てる。

花も、あきらが好きだった酒も、供えるものは何も持ってこなかった。もしあきらがそこにいたなら、口を尖らせてぶうぶう言うに違いない。あまりに自然に想像できてしまい、口の端を持ち上げて穏やかに笑った。

「……久しぶり。最近忙しくてさ、全然来れなかった」

墓の前によいしょと口に出しながら座り込む。立てた片膝の上に腕を置いて、友人に話しかけるように近況を話した。自分の受け持ちの生徒のこと、腹の立つ上層部の連中のこと、後輩先輩問わず人をからかうのは面白いこと、有望なのがちらほらいて将来が楽しみなこと、

たった一人の親友を、自分の手でそちらに送ったこと。

「もう会った?」

いらえは無い。

しばらく言葉が途切れて、溜息を吐く。
時計を見れば思ったよりも時間が経っていた。そろそろ高専に戻らなければ、次の仕事に支障が出そうだ。
億劫そうに立ち上がった五条は墓石を見下ろして、「そろそろ帰るよ」と声をかける。

返事はない。あきらはそこにいないのだから当然だ。これは五条の自己満足で、何の意味もなくて、ただ感傷に浸るための行為にすぎない。

「……また来るね」

けれどあきらならば、きっと喜ぶだろうから。

寂しがりの人だった。
そんなところばかり、よく似ていたのだ。

墓石に背を向けたところで、タイミング良く風が吹いた。葉が擦れてさわさわと微かな音を立てる。
それを都合良く受け取ることにして、五条は薄い唇の端に、小さく笑みを浮かべた。