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はしゃいでる猪野

「部屋借りたんスよ〜!」

といくつか下の後輩が高専の待機室に入ってくるなり機嫌よく告げて来たものだから、あきらは「へえ、おめでとう」と実にどうでもよさそうな返答をした。目は携帯の画面に釘付けで、猪野にはほとんど注意を向けていないが、本人はさして気にしていないらしい。
ふふんと得意げに笑うと聞いてもいないのに場所はどこどこで、駅から徒歩三分で、築六年で9階でといらない情報を教えてくれた。
高専を卒業してからもしばらくこの山奥で過ごしていた猪野のことだ。晴れて都心に住むことになったのがよほど嬉しいと見える。

「景色もいいんスよ!」
「へえ」
「あきらサン来てみます!?」
「行かない」

間髪入れずに答えると一瞬そっスか、としょげた。だが本当に一瞬で、まあまた近くに来たときにでも!と笑顔を取り戻す。
立ち直り早いなとちょっと呆れてしまった。若いってこういうことだろうか。